「なんだ?これ…」






から手渡された包みを
邪魔くさそうに開ける冬獅郎は
中から出て来る見慣れぬ物に、眉をしかめる


「…現世の着物か。」

「ええ、こちらで言う統学院の様な場所の、制服だそうですわ」


冬獅郎は眉をしかめて
何に使うのか解らないネクタイやカッターシャツを
不審物を見るかの目をして、睨みつけている


「今回の任務で必要にかもしれないからと…」


あからさまに、興味が無さそうな冬獅郎に対して
はにこにこしながら
それじゃ今から早速、試しに着てみましょうと

冬獅郎の背後に回って半ば強引に
羽織を脱ぐのを手伝う


「初めて着る。…面倒だ」


に脱がされているようで
どうにも落ち着かない冬獅郎は
そう口にして、自分への言い訳にする

が、やはり恥ずかしくなって
座って袴を穿いたまま
自分で上の着物を脱いだ


「えっと、これが上に着るもの…ここが袖で…」


胡坐をかいたまま動かない冬獅郎へ
懸命に着方を説明する

冬獅郎は、渋々見慣れぬシャツに腕を通す



「…袖が短い」


普段出す事の無い肘から下が
どうにも違和感を感じ
やはり、冬獅郎のまゆには皺が寄っている


袴にカッターシャツ

よく見れば、なんともおかしな格好だ
それに加えてカッターシャツは、ただ羽織っただけで

ボタンと言う物は、存在その物を
冬獅郎に気付いて貰えないで居た


は冬獅郎の正面に座ると、一つ一つボタンを留める


それがどうにも照れ臭く
冬獅郎は顔を背けてしまう


血液が顔へと昇って行くのを感じ
に気付くなよと、心で念じてみるが

いつもの様には組めない腕の中へ
願えばすぐにでも
抱き寄せる事が出来る距離に

どうにも落ち着かない


自分の襟元へ、ネクタイと言う物が
の手により器用に捲かれて行くのを
横目で確認すると

冬獅郎に素朴な疑問が浮かんだ




「…?、お前何で着方を知ってるんだ?」


「冬獅郎さん、今回の任務は他の隊から
来られる方も率いるのでしょう?」


「ああ。そうだが…っておい!馬鹿!袴を引っ張るな!!」




質問したはずの冬獅郎が、質問されて答えている
そんな矛盾よりも
胡坐をかいたまま座っていた、冬獅郎の袴の帯を
は、するりと解きぐいっと引っ張った

あれよあれよと言う間に
冬獅郎は袴からズボンへと着せ替えられる


はいたって真面目に
この制服を着せる事だけを考えて居たのだが

そんな事はどうであれ
にひん剥かれて、立場が逆なんじゃねえか?!と
真っ青になった冬獅郎の心の中の

叫び声は今、に届く事は無い



「冬獅郎さんなら、責任者として格好もきちんとして置きたいと
おっしゃるだろうと思って。はいっ、これで大丈夫です!」


冬獅郎の細い腰に、ベルトを通して
はようやく冬獅郎の顔を見上げて
達成感の有る笑顔を見せる



「よくお似合いですわ」



満足げなの顔を見ると
もうどうにでもしてくれと、思うしかない


冬獅郎は軽く咳払いをして、冷静さを取り戻すと
改めてに問いかけた



「……いや、あのな…だから何故、が着方を?」


「最近魂が導かれた方に教わったんです」


「ああ、その為に流魂街まで行ったのか?」


今日が流魂街にいった訳と
着方を知っていた理由が
ようやく解った冬獅郎だったが


「ええ。あ、あと上の着物の裾を
外に出すのがお洒落だそうですよ?」


冬獅郎のシャツを引っ張りながら
ふいにが淋しげな顔をして笑い
すぐに目線を外したのを、冬獅郎は見付けた




現世で冬獅郎が困る事の無いように
自分が出来る事が余りに少ない


せめてたった一つの事だとしても
冬獅郎が困らないようにと
懸命にネクタイの締め方を、覚える
冬獅郎の胸の中に浮かぶ



「……息苦しい上に、動きづらいな。」


心に小さな痛みを感じて、冬獅郎は困ったように笑うと
ネクタイの結び目に手をかけながら

がいつも使う姿見の前に立った


いつもの自分とは違う姿が鏡の中に居る

それがまるで別人のようで、妙な感じだったが
嫌な気はしなかったのは
冬獅郎の背中をみつめる
共に鏡に映っていたからだろう


は死装束を畳みながら
鏡越しの冬獅郎へと声を掛ける


「女性の帯を締める時と、同じかも知れませんね」


「帯?」


冬獅郎が聞き返すと、はまっすぐな瞳を
鏡越しの冬獅郎に向けて


「少し息苦しいですが、きちんと締めれば気が引き締ります」


は畳み終えた着物を膝に乗せ
正座した背筋をしゃんと伸ばし
そう言い終えるとまた、にっこりと微笑んだ



「…ああ。そうだな」


の言葉で、緩めかけたネクタイから手を離し
腕を組んで振り返る冬獅郎もまた
穏やかな顔だった







から畳み終えた死装束を受け取って
冬獅郎は、ある事に気が付く


「で…、何故形違いがそこに有る?」



ちょうど姿見から向こう側
衣紋掛けに吊るされた、もう一つの制服が
冬獅郎の目に止まる


「それを着て練習しました。女性の首紐と下に穿くのは
少し形が違います。着てみせましょうか?」



必要無い。と言いかけて、冬獅郎は黙り込む





考えても見れば、着物以外の衣をまとう
の姿を見た事が無い

鳥になる事はよく有るが…


見てみたいと、心によぎった本音を
だからと言って、俺が着てくれとに頼むのか?

そんな事出来るかよ…つーか俺に振るな…


散々葛藤し、一人機嫌を斜めにする冬獅郎は
に背を向けて
もっとも便利な言葉で返してみる


「勝手にしろ…って、!?」



冬獅郎の葛藤は無意味なほどに
姿見に映る
すっかり帯を解き終えている


「ここで脱ぐな、馬鹿やろう!!!」

冬獅郎の叫びと同時に、静かに突き出された拳は

見事、姿見の鏡のみにひびを入れて
音も無く綺麗に砕け落ちた

畳の上に小さな山となった鏡の破片は、氷の欠片に似て
緩やかな光を、いくつもの角度に向け照らす

調子を狂わすの、一挙手一投足は
不思議と心地良いのだが
の前だからこそ、誇り高い自分でありたい


(どこかの馬鹿みたいには、絶対になりたくねぇ!!!)


理由はどうあれ
自ら視界をさえぎる事に、成功した冬獅郎は
ひとまずほっとした



激しく集中していた
その様子に全く気付いていない

着替えを終えて、冬獅郎の後ろに立った
鏡に映るはずの自分の姿が
ただの木製板と化し、目を丸くした


「えぇ!?!」


その声に振り返った冬獅郎は
よりも驚く事となった







    


前回のシリアスは一体どこへ…
裏には続きませんのでご安心下さい(?)
次回さらにギャグを経て、ようやくシリアスに戻します。
(あてにならない管理人の予定でした。)
前回の背景等は、気が向いたら直します。
(あてにならない…以下同文)





明日を迎える為に