何度でも生れ変る
あなたに出会うためなら
わたしはいくらでも待っています


あなたさえ居れば






女神にもなれる








とおいとおい昔の記憶



代々続く名高い城の姫君


幼き日から自分の名前は
有って無い様な物だった


姫様姫様

姫様

姫様姫様。



呼ばれる度に微笑むのは
冷たい仮面をかぶった自分


誰も自分をとは呼ばず、
塀に囲まれた城と言う

鳥かごの中


毎日人形で居なければならない


決して自分の意思では
生きることも死ぬ事も
許されない塀の中で




雪が降り積もり
凍える風が吹き付ける


とてもとても寒い満月の夜





はこの鳥かごから
抜け出した。






初めて出るかごの外の世界

凍える寒ささえ
心地よく感じた程に


あの月に届けば自由になれると

上へ上へと導かれるように



雪の降り積もる人里離れた
恐ろしいはずの深い山が

にとっては自分を
受け入れてくる

暖かな地だとおもえたのだ




大きな谷に
差し掛かった時には
の細い身体は限界を
とうに過ぎていた


足が前には進まず
そのまま雪の中へ倒れ込む





「私…死ぬのかしら。」





不思議と、恐怖を感じる事は無い


見上げてそこに有るのは

深い闇に映る月と

それを刺すように伸びる
高い木々




戦国の世に産まれ、
周囲の者達の
益の為だけに


この身を振り回され続け、


ただの人形で居るためだけに
ただ生きてきた




自分の上に降り積もる
真っ白な雪は、

の叫びを
洗い流してくれるようだった




「雪が私を…本当のとして、
 看取ってくれるのね…」





は薄れ行く意識の中で
わずかな暖かさを感じる

それを確認出来無いまま
深い眠りに落ちた







ぱちぱちと薪のくすぶる音が
耳を擽る



・・・私天国へ着いたのかしら・・?





手足の先の感覚が無い


ゆっくりと眼を開け辺りを伺うと
自分がどこかの家の中に
居ることが解る



天国って・・こんな所だったのね・・



城で育ち
豪華な城内の建物以外

入った事も目にした事も無い

火の点いた薪の音の方を見て
囲炉裏は話に聞いた事の有る
火鉢の大きい物ね、とぼんやり考えた


囲炉裏の上へ天井から吊るされる
四角い覆いが何は
不思議だった





そのすぐ傍で
一人の青年が視界に入る




自分より三、四つ年上だろうか

二十歳を超えたばかり位の



大きな眼に重そうな瞼をのせた男が
こちらを向いている




「気が付いたか?」




はその青年の
雪の様な銀の髪が

重力に反して
明後日の方向に
生えている事に目が止まり

空ろ気に眺めていた。



「おいおい、雪ん中埋まってるの助けてやって、
眼が覚めた途端に……無視かよ!」




湯を沸かす囲炉裏に薪を投げながら
やれやれと言う感じで、

青年はグチをぼやく。



「・・・綺麗な銀色・・・」



は今まで見たことの無い
その髪の色に
自分を包んだ雪を重ね
見とれていたのだ。



「綺麗???
 お前変わった奴だなー?
 へんな色とは言われてきたけれど、
 そんなこと言う奴には、
 初めて会ったぜ。」



青年は幼く笑う



「とても・・・綺麗・・・。」



夢空ろな

諦めた様子の青年は
桶に張った湯に布を
浸して絞り

凍傷になりかけたの手足を
温めてやる



「天国は、暖かい所ですのね。」



「・・・お前。ホントにやばいな。
 俺がお前を助けてやったっ!
 つったろ!」



大きな声で一喝され、
自分が生きている事を

認識せざるを得なかった。

自分自身として

死を選ぶ事さえ許されなかったのか



救ってくれた者へ
当たる事では無いとは解っていたが

それはただ、魂の嘆きを
誰かに聞いて
貰いたかったのかも知れない




「何故!あのまま
 死なせてくれなかったのです!
 私など生きていたって…!」




が続けるより先に
青年の怒った声が飛ぶ。




「ばかやろうっ!あのなぁお前、
 今お前がここに居るってことは、
 生きてるって事は、
 存在してなきゃいけない理由が
 どっかに必ずあんだよ!」




は目を丸くして驚いた。




「私が私で居る理由はありますか?」




こんな風に自分を
叱ってくれる他人が居ただろうか


初めて自分の心の中の
質問がこの青年の前では

自然と体の外へと出された。




「ああ?自分が自分である理由?
 そんなもん、
 お前自信が
 決めればいいだろ?」




「私が…決める?」




「あー。面倒くせえ。それじゃあお前、
 俺の為に生きろよ。
 せっかく助けてやったんだからな。」




城の為、

一族の為

人形である為


それ以外の生き方を


考えられる事が今までに
一度だって有っただろうか




初めて出会うこの青年に、

は惹かれずには居られなかった。




「あ、あの、あなたの名前は?」



「冬獅郎。日番谷冬獅郎だ。
 お前は?」



「冬獅郎さん…
 私はですわ」



か。いい名だな。
 お前に似合うよ」




「私に・・・似合う?」




ここが谷から離れた
山小屋である事


その山小屋を普通の
民家より立派な合掌造りに

たった一人で作り上げた事



自分が幼き日より
その銀の髪のせいで

忌み嫌われ村を追われた事



自然と共に生きる事、それが自分にとって

楽しい生き方で有る事




囲炉裏の上にあるのは
火の粉が天井へ
飛ばないようにする為に
有る物だと言う事



体が回復するまで毎日

冬獅郎はに沢山の事を
話して聞かせた


春が近づき雪が溶け出し
青い空が戻る



二人並んでそれを見ていた







冬獅郎は照れた顔を
斜め上に向けて

ぶっきらぼうにに告げる



、お前。俺の嫁になれ!」


そうすればずっと

お前はありのままの
で居れるだろう?

そう言葉を続けた



恥ずかしさを切り捨て
まっすぐの瞳を見つめた後

冬獅郎はを腕に抱きしめる



死が二人を別っても
結ばれた魂は決して離れる事は無く
永遠に共にと

二世の契りを交わした

私達は共に生きた


共に支えあい、心が繋がっていた


それが何より幸せだった



この幸せが





ずっと続くと信じていた


















1年余りが過ぎ、
二人が出会った
雪の季節が訪れる頃



余りに突然の別れの訪れ






冬獅郎との住む家の中に

火のついた槍が投げ込まれた



「?!」



!大丈夫か?逃げろ!」



「早くしろ!外に出るんだ!」




何が起こったか解らず、固まったまま
動けない
冬獅郎は抱えて家の外へと
飛び出す

外には甲冑を身に付け
弓をコチラに向ける兵士達が

燃え始めた家の周りを
取り囲んでいた





「誰だ?!てめーら!!!」


冬獅郎は叫ぶ



「そこの女が姫のようだな?」


大勢の中の、ひときわ大柄の男が
冬獅郎の腕で恐怖に震える
指差した



「…私…私はっ…」



「あんたが一族最後の生き残り、
 姫だな」




最後の生き残り…
その言葉を聞きは、冬獅郎の腕を振り解き
冬獅郎を庇う様に前へ立つ


が居た城は、敵の手に落ち一族が滅ぼされ

追っての刺客が最後の一人である


を闇へと葬る為に

ここを探し当てた事を悟っていた



「私一人を殺せばいいわ!
 冬獅郎さんには手を出さないで!」



そう言い自ら
囲む兵の中に飛び込んだ


「物分りが良くて助かるぞ!
 親方様の為その首貰い受けたわ!!」


大柄の兵士は手に持った刀をに向け
一気に振り下ろす


っ!!行くなっっっ!」

その瞬間

冬獅郎はの腕を引き寄せ
自分の背の後ろへと
払い除けた



「っ!!!冬獅朗さんーーー!!!」


銀色の髪までもが
紅い鮮血を受けとめ
みるみる血に染まる



「どうして!
 …どうして私をっ!
 …かばったりなんてっ・・・」



倒れこむ冬獅郎を
受け止めたもまた
着物を血で滲ませる



「すま・・ねえな・・・・
 こいつらをやらなきゃ・・・
 
 お前を…
  …護れないのに」




どうして!どうして私を・・
巻き込んだのは自分だったのに。
は言葉にする事が出来なかった




「…なんて顔すんだよ…お前が姫だとか何だっていい。

…俺は…お前と出会えて‥幸せだった…」




冬獅郎の視界は
徐々に曇る



「冬獅郎さん!…冬獅郎さんっっっ!!!」



はただ、名を
呼び続ける事しか
出来なかった



「っつ!・・・く・・そっ!
 おれがお前を
 ・・まもってやらねえ・・・
 と・・・」




左の肩から右の腰まで切られた刀傷になす術も無く
冬獅郎はの腕の中で
息を引き取った



「いや…いやっ…。
 冬獅郎さん…冬獅郎さん!
 
     いやあぁ―−−−−−−−!!!!!」




の叫びは渓谷に轟く
しかしその声はもう、
冬獅郎には届かなかった


別れを惜しむ間も無く
冬獅郎を切り付けた刀は無情にも

目の前の出来事を現実に受け止められず

亡き骸を抱き、瞳を凍らせたまま震える
を襲った


冬獅郎に重なり合うように
の体が崩れ落ちる

傷の痛みなど感じない

凍り付いた心に開いた穴が
を飲み込んだ




力尽きた二人を
あざ笑うかのように

高らかと笑う悪魔の声がうねる


時が過ぎ、
身が朽ち果てても

凍りついたの心だけが
いつまでもそこから
消える事は無かった






     

はい、いきなり二人共死にました(汗)
大丈夫です。どうにかして復活します。
続きを読んで復活させてやって下さい。
でないと、このまま「完」となって、
ひら姉は泣きます。

物語の始まり