雛森、吉良、阿散井

三名の副隊長の脱獄

これから起こる暗く黒い出来事を予感した冬獅郎は
の身を案じ

十番隊隊主室に鏡門を張り
そこに留まる事を命じた









俺が戻るまで絶対にここを離れるな
必ず生きて戻る

心配すんな、
約束だ







氷輪丸のぶつかる霊圧を感じる




は冬獅郎との約束を

飛び出して行きそうになる身体に
震えながら言い聞かせていた。



何があってもお前を
巻き込みたくは無い

すべてが終わったら



笑って迎えてくれ





冬獅郎のその想いに
答えよう


必ず無事に帰ると言った


信じなければ


信じなければ






生きていて/…


そう願い全身で感じていた
冬獅郎の霊圧が



消えた







の蒼い羽は同時に

硝子の様に
弾けて砕け落ち

氷輪丸の破壊を告げた


それは冬獅郎の敗北を
意味するものだった





冬獅郎さん!


どうか生きて……!!!



自分が犠牲になってでも
あなたが生きていてくれるなら
何も惜しくは無い



どんなにそうしたいと願っただろう



しかしそれを冬獅郎が望まない事を



二人共に生きる道を
冬獅郎が願う事を



凍りつく身体に言い聞かせる



信じてる


信じなければ




お願い


生きて…!





!ここに居る?!やだっ!隊長ったら、
 門にまで結界まで張ってるの?!」


卯ノ花達の緊急伝令さえも
は祈りによって跳ね返し

冬獅郎が部屋に張った鏡門の前に
十番隊隊主室へと続く門を
飛び込んできた乱菊さえ

高まる霊圧により
押し飛ばしてしまう所だった






「…乱菊…。」


空ろな目で
乱菊の無事を確認する


意識を保つ事で精一杯だったのだろう



乱菊は逸る気持ちを抑え、
自分に今出来るだけの事を考える

震えるの身体に乱菊は
居た堪れない気持ちになる



「…。、…あんたなんて顔
 してんのよ。」



自分より年上の
迷子の子供の様に見えた




「冬獅郎さんが…冬獅郎さんが…
 わたくし・・・・」




ただ一人きり、

隊長の帰りを

無事を

祈るように待っていた
それ以上の言葉を続ける事が出来なかった





隊長なら何と言うだろう



乱菊もまた、今は自分が副隊長としてでは無く

一人の女性として
ギンの元へ行きたいと願う

もまた、同じだろう




…隊長は私の判断を咎めますか?





「私は隊長の代わりに双極へ迎うわ。
 
 ・・・。あんたが私の代わりに
 隊長の所に行ってくれるわね?」



これは護廷十三隊隊長不在緊急時の


副隊長の権限


そう自分に言い聞かせ
乱菊はを促した



「・・・・ありがとう。乱菊・・・。」



乱菊の迷う気持ちは
声によって緩やかに解かれていった

















護衛すら付けず
通り過ぎる景色すら
瞳に捉える事も無く

は冬獅郎の運ばれたその場所へと駆ける




…卯ノ花の霊圧を感じるそこに
きっとあの人は居る


どうか


どうか無事で



ただそれだけを願い周りの静止を振り切り
そこへと辿り着く



「冬獅朗さん…!冬獅郎さん…」




同時に運ばれた雛森と並ぶ二つの寝台
息を切らせて足を踏み入れる




部屋に漂う血の匂い

砕けた斬魂刀に




の身体は凍りつき、それ以上近づく事が出来なかった



信じてる



信じたい




生きていて


どうか



生きて!





様、大丈夫ですよ。出来るだけの処置はしております。
 命はとりとめました。」


処置を終えた卯ノ花が、背後にの気配を感じ
寝台から離れ声をかける




「ありがとう、ありがとう卯の花…。」



命は取り留めた


貴族や王族
四楓院家の肩書きも

何もかも脱ぎ捨てて

卯の花のその一言で、
は安堵の余り、その場に咽び崩れた


子供をあやす母のように
卯ノ花はを宥める




後は彼ら次第です。

一命を取り留めた日番谷隊長が
あなたを残して逝きますか?


笑って迎えてお挙げなさい


卯ノ花は皆に聴こえぬ様優しく告げその場を後にする



「それでは、私は他の者達の処置に参りますので、
 日番谷隊長をお願いします。」




「卯の花…ありがとう…本当にありがとう…」







どの位時間がたっただろう
は眠る事無く、冬獅郎の傍に居た

自分のありったけの霊力を
砕けた氷輪丸を通し冬獅郎へと送る

自分が冬獅郎の為に出来る事の少なさに
嘆く時間さえも惜しんで


「冬獅郎さん…」



どうか戻ってきて

どうか行かないで




生きて




生きて…







の祈りが
ほんの僅かな時間冬獅郎へ届く事を許した



「…ん…。」


冬獅郎は苦痛に顔を歪めながら、意識を呼び覚ます


「…冬獅郎さん…。冬獅郎さん!?」



ずっと離れていたような気がした
懐かしい声が魂に響く

霞む視界に愛する者の姿が微かに映る
幻ではない事は
体の痛みが教えてくれた




「……つっ!」





「!冬獅郎さん!!」




の瞳から涙が溢れ出す。






「…よかった…冬獅郎さん…よかった…。」





「…し…んぱ…い…かけちまったな…。
 すまねえ。…。」





ぼろぼろになりながら
冬獅郎に縋って震える

自分より小さく壊れてしまいそうで脆弱に見え


何より心が痛む




「冬獅郎さん……おかえりなさい…」




ありったけの笑顔で俺に声をかける
嗚咽の混じったそれは

酷く掠れていて


自分が極めて危険な場所からの
帰還だったかと言う事を
刹那に感じ取れた


目が覚めて最初に聞いた声がだったからこそ



この先考えずには避けて通れない色々な事も

この時ばかりは思わずに済んだ。


ただ生きての声を聞けた事その喜びよりも



悲しませてしまった事
不安にさせてしまった事を
切に託つ





「わりい…な。負けちまった……くそっ!…つっ!!」



「冬獅郎さん!どうか責めずに安静を!
 
 


 わたくしは…

 …わたくしは…冬獅朗さんが


 生きていて下さっただけで……それだけで…」





流れ落ちる泪に遮られた声は

言葉を超え

生きている温もりこそが、それを伝える




「…。…手。
 
 握っててくれるか」




「…!はいっ。」


俺の手を包む両手は震えている




「…俺もっと強く…為るから…。」



激しい痛みはの香りが
緩やかに麻酔を掛け

意識を深い眠りへと誘う




「冬獅郎さん、もう何も言わないで…」



「……‥傍に…‥」




俺は再び意識の底へ堕ちて行く



許されるならどうか


もう少し









二人このままで













             


前からこうなればいいな〜と
何となく書いてましたが、
日番谷君の無事を祝して
待ち切れずにup
ひら姉個人的理由により
ここの日番谷君は雛森ちゃんの
安否に一切触れません
雛森ファンの方ごめんなさい・・
生きて