12月20日午後11時34分






季節外れの花火を観た後、隊主室で
酒盛りを始め出した松本、以下三名を

冬獅郎は早々に追い出し



副隊長がさぼった分、倍へと膨らんで
山積みになった仕事を
やっとの思いで全て終わらせた




仕上がった書類は乱雑に積み上げられ
今にも崩れそうになる




ここまでやったんだ…
間違っても崩れんなよ。
書類の山に向って、睨む様に念をこめる











12月20日午後11時36分







引継ぎの準備を終え、時計に目をやり、
はっとして振り向いた冬獅郎の横で

込めた念も空しく
書類は無常に、ばらばらと崩れ落ちて行く




床一面に広がった書類にぎょっとして
頭を垂れながら、大きくため息を吐いた



片付け直している時間など無い…
これは床の模様だ…と、
無理やり自分に言い聞かせて




冬獅郎は、十番隊第三席を呼び付ける






「おいっ!頼む。俺のやるべき仕事は、全て責任持って片付けた!
 後の処理を頼んだぞ!」







待機していた第三席は、執務室に入った瞬間
床一面に広がった書類に
思わず声をあげそうになるが

隊長の鋭い視線を感じ
その事には触れずにと、冷静に声をかける




「お疲れ様でした!日番谷隊長。残りは自分が引き受けます。
 今日はこのまま執務室で休まれますか?」




「おいおい、冗談じゃないぜ!隊主室へ帰るに決まってんだろーが!
今日はこの後なんか有っても、お前らで頑張ってくれるか。
…頼むから呼ぶんじゃないぜ・・・」





書類には効かなかった低い声と
鋭い瞳が第三席へじんわり念を押す




「りょ…了解しました!・・・あー…なるほど。いっいえいえ、お、お疲れ様でしたー!」






冷や汗を掻きながら、答える第三席の声は
聞き終えて貰える事無く

窓から飛び出した冬獅郎を
横切る風と共に瞬時に通り過ぎ

開かれたままの窓から吹く木枯らしが

執務室の書類を吹雪きに換える



第三席の悲愴な叫びは、
隊長の耳に届く事は無いままに

















走り出したその道は
いつもより長く遠く感じて…



への思いが募る














執務室の有る隊舎からそこへは
裏の十番隊鍛錬場を通り過ぎ


その向こうの長い石畳を抜け

無駄に長い階段を
千段ほど昇った後に




ようやく門が見えて来た

















俺が留守の間、が俺を待つ二人だけの場所







十番隊隊主室








冬獅郎が隊長になったばかりの頃
隊主室のすぐ裏に在ったそこには

隊長が仕事で留守を良い事に

他の隊の奴らまでもが許可無く、
上がりこんでは
と話をしたがった






皆に慕われるを嬉しく思うと共に

俺と共に過ごす場所を

荒らされている


…そんな気がした








冬獅郎は間も無くその場所を
そこから遙かに離れた位置へと移した





十番隊隊長としての自分と
との時間を
自分が完全に区別したかったとは言え…




『・・・遠すぎて不便です。』

そうぼやき、

『だって、サボりにくいじゃないですかぁ〜』

と、続ける松本を思い出し余計に
腹を立てる






「くそっ遠すぎる…!」








距離を取った事を、さすがに今日ほど




後悔した事は無い。





と共に歩くこの距離は、とても短く感じるというのに。











ほんの数時間前に会った
冬獅郎の首へと捲いた

衣に顔を埋めながら

はらはらと舞い散る雪をかすめて
ゆっくりと二人歩いた道を
今はただ振り返る事無く




の元へと全力で駆ける











12月20日午後11時47分






執務室を後にしておよそ10分

我ながら最短記録を祝いたい所だが…



の待つ部屋に滑り込んだ






「?!冬獅郎さん?おかえりなさいませ。何か大変な事がございましたの?!」



「はぁっ…はぁっ…間に合ったか。」



息も切れ切れに部屋へ飛び込んだ俺に
驚いたは、何か遇ったのかと
一瞬顔を曇らせる




「確かに俺には一大事だぜ。あと10分かそこらで終わっちまう。」






「!そうですわね。お誕生日中にお戻り下さって、は嬉しいですわ。
お疲れ様でございました。冬獅郎さん」



無事を確認し
雲が晴れたように微笑んだ




…おまえから貰いたい物が有った。…だから今日中に戻りたかった。」




は冬獅郎が肩から下ろした斬魂刀を
収め、衣を受け取ったその瞳に
再び雲が霞む





「これではお気に召しませんでしたのね。わたくしどうしたら良いかしら…」


首に纏っていた衣を畳みながら
は少し悲しい顔になった。





「ちげーよ。勘違いすんな。それは礼を言ったろ?」



うつむくに、冬獅郎は声をかける






「お聞きしてから用意していればよかったですわね。
 …まぁ大変っ!今からじゃ間に合いませんわ。」


繭を顰めてはいるが、冬獅郎の優しい声にまた
は安堵するのも束の間
慌てて時計を確認する






「心配すんな、間に合うように…だから走って帰って来たんだ」


「冬獅郎さん…何をお祝いに差し上げたらよかったのかしら…」





俺の言葉一つ一つに
クルクルと廻るの表情は

俺が今ここに居る意味を教えた








「今日が終わるまで傍に居ろ。…それが俺の今欲しい物。」






冬獅郎はそう言いながら
羽織を脱いで放り投げ
立ち上がりかけた

腕をぐっと引き寄せ顔を覗く






「ただいま、。」






頬に息がかかるくらい近くで、呟いて






「おかえりなさい。冬獅郎さん…」





二人静かに呼吸を重ねる


重く背負った物が、すべて剥がれ落ち
何より幸せな瞬間


先ほどまで纏った衣の香りより近く






温もりと共にを強く腕に抱く





今日のこの日が終わるまで
後ほんの少しの時間







心静かに

















君の香りを重ねて














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裏に行くまでがあんまり長いので分けました。
続きは裏十番隊隊主室
「君の香りを感じて」にてv


君の香りを重ねて