氷の刀が生まれた日






「俺の…妻にならないか…?。」



「え…?」







驚くの両手を取り
穏やかな目で浮竹はを見つめた




「今すぐに返事をしろとは言わない、何せお前の事だ、
また俺の身体を気遣って…
いや、でもしかし、その事は心配するな。
が共に歩んでくれるなら
俺はお前を残して死んだりなど、決してしな・・・?」


ブルルルル・・・・・・


「…ん?」








ジリリリリリリリリリリリリリリリーン!!!!!!







「?!」




話す言葉をさえぎる様に
浮竹が包んだの両手の中に
隠れて居た懐中型の時計が

大きく震え

けたたましく鳴り響く







「大変っ!もうこんな時間ですわっ!今すぐ行かなきゃ!」







思わず手を解いた浮竹を他所に
は、傍に置いていた短刀を掴むと
すぐさま部屋を飛び出した



浮竹は唖然として目が点になる





「…なっ??!お、おい、こんな時間からどこ行くんだ!」



「浮竹様もご一緒して下されば解りますわっ!」






ちょ、ちょっと待て?!これほど大切な話を
通り過ぎるまでの用とは、何が有ると言うのだ?
浮竹はあわてて、の後を追う






「それほど急ぐのであれば何故飛ばん!?!」




「霊圧を留めて置くため為に、今、凰華は使えないんです!」


「背に羽根を纏えぬほど、力が居る場所へ
行かねばならんのか?!」



「ええ。」



それならば、尚更共に行かねばならんだろう、と
思う浮竹へは、一度も振り返る事無く
風を切り、夜道を駆ける




双極の丘を越え、の飛び込んだ先は
姉が浦原と共に使って居た

あの鍛錬場であった。







「ここが一番集中出来て…」




入り口から少し離れた場所で
ようやく立ち止まったは、大きく深呼吸をして
たすきを架けながら言う




「ようやく今日、開放できそうなんです。」






…開放?

凰華の始解はすでに得た筈だ…
背を向けたままのに浮竹は問う





「卍解か…?」




「いいえ。やっと……やっと、また逢える…」



はそう言うと
部屋を飛び出してから、初めて浮竹へ振り返り


たった一度きり

とてもやわらかに微笑んだ





(逢う…?誰に……。)




「………。」


訊ねたい言葉をぐっと胸に押し込めて
浮竹はいつもと違う、を見つめていた



の微笑みは、間も無く真剣な表情に変わり
帯に挟んだ短刀を抜く







「…天涯に舞え… 凰華…」






の静かな声と共に
柄から抜かれた刃先は、見る見るうちに

大きな黄金色の鳥へと姿を換える


の頭上を、ぐるりと旋回し
足元から少し離れた岩へと降り立つ





「凰華、今日こそお願いね。」





そう言っては、凰華の前に跪き
祈る様に瞳を閉じた




(何だこの霊圧は?!の物とは違う…。)



が開放していく霊圧の中に
浮竹は別の霊圧を感じ取る






の胸元から、身体をすり抜け
一つの白い小さな光が
浮かび出でる




はそれを、大切に受けとめて

両手で水をすくうように
凰華へと高く掲げた






「…凰華、羽根を。」





の穏やかな声を受け

不死鳥のようなその鳥は
長い尾を一本へ与える






の掌からそっと放された光は
黄金の羽根に重なり

やがて銀色の光へと変わり、辺りを照らす








「どうか…あなたを護るチカラに換えて…。」





両手で空を仰ぎ
は次第に霊圧を高めて行く




「…くっ!…?!」




辺り一面をの霊圧が駆け巡り
炎の波が激しくうねる


「何をする気だ、!」





(…鬼道の防御では…塞ぎきれん!)




全力で霊圧を開放する
浮竹は已む無く斬魂刀を抜く








の全身から放たれる
霊圧を吸収するように

銀色の光に包まれていた羽根は

パキパキと音を立てながら、その光の中で
徐々に凍りつき

炎をも消し去っていく








二つの重なる霊圧は
深く大地を揺るがし、大気が震え



遠く深く



祈りるように





は叫ぶ










「どうか……目覚めて!」








―――――――――パキィィィィンンンン!!!!!








目も眩む程の、閃光を纏った氷は
一際高く響く音を立て、砕け散り






一本の刀をそこに





生み出した










破片となった氷の粒は、
銀色に輝き結晶となり、
ダイヤモンドの塵が降り注ぐ







「な…なんて事だ………」




その光景に浮竹は、斬魂刀を収め

小手を翳し静寂を取り戻した
来し方を見上げる







「まあ…。綺麗……」






はしばし、それに見惚れ

自分を包んだあの、遠く雪の山での
夜の記憶を重ね描く







「凰華の炎とは反対ですのね…
……あなたはやっぱり…

雪が…とても似合う…」







緩やかに堕ちて来た、一本の刀を翼で受け止め
の元へと運ぶ凰華を、優しく撫でて
生まれたばかりの刀を
はぎゅっと抱きしめる




「凰華、ありがとう……」









やっとあなたに会える。



それはまだ



始まりでしか無いかも知れない




…けれど






あなたの望んだ事を





やっと






やっと一つだけ










叶えてあげられる












霊圧を注ぎ込み、肩で呼吸をする
見守っているだけの自分に
堪えかねた浮竹は、傍へ駆け寄る




「大丈夫か、!…その刀は…」



「大丈夫です。この子は、お届けに行きます。」






…やはり王族にか。


そう考えた浮竹は、怒りにも似た
やり切れない感情に、眉を顰め
苛立ちを覚える


そんな浮竹の隣で、
僅かに残った霊圧を振り絞り

背に蒼い翼を纏う






「い、今から行かねばならんのか?!」


無理をするなと止める浮竹に
は告げる


「ごめんなさい浮竹様…また
浮竹様に、心配をかけてしまって…」


「俺の事は構わん、
しかしお前その身体では!!!」



「わたくしは平気です。今行かないと。
あの人が今そこに居るから…」



「なっ?!!!」



飛び立つを、今空を舞う術を持たぬ浮竹は
追いかける事が出来なかった。


王族の住まう場所とは、反対の方角へ
向って羽ばたくに目を顰め
ただその帰りを


待つばかりのみであった













空間の狭間から彷徨う魂を
が導いてその後


およそ五十年間もの間



その魂は
時を止めるように
尸魂界に留まっていた





その後幾許の時をかけ
少年へと姿を変えて行く



まるで誰かを待ち侘びるように

それはとても


ゆっくりと








そしてこの日

は刀を連れて


月明かりの下に蒼い羽根が舞い降りる









天女となって精霊壁を超える
























再び瀞霊廷へ壁を越えた
羽根を広げる霊圧さえ失い
力尽きた



意識を失い掛け、地に落ちる寸前
帰りを待ち侘びていた浮竹が
を受け止める





「無理をし過ぎだ・・・。」


「…浮竹様…心配かけてごめんなさい。」




「何故こんな無茶をした・・・・」



「もう一度、共に…生きるために…」




は瞳を閉じたまま
ぼんやり呟いた



「……考えてくれたのか…?」




ようやく求婚が身を結んだのかと
ほっとしかけた浮竹に
疑問符を浮かべたの顔が映る



「……えっ…?」



「…ん?どうした?」




「……あっっ!!!…ご、ごめんなさい浮竹様、
あの、そのお話は…。」




完全に忘れていたか
そもそも話を聞いていなかった様子の
に、浮竹は怪訝そうに伺う




「…・・・?」





怪しい雲行きが帯び出した空気に
浮竹は嫌な予感が頭を過る









「あ、あのっ…わたくし…」









一瞬告げる事をためらった
何を思い出したか
頬を赤らめ、恥ずかしそうな笑みを
浮竹に向ける













「たった今、許婚が出来ました。」











「なっっっっっ?!?!!!」











余りの衝撃に、浮竹は
バーーン!と後ろへ倒れ込んだ


を幼き日より見守ってきた

浮竹の想い出が頭の中に
ぐるぐると走馬灯のように駆け巡る


……これは…。夢だ。
ああ。きっとそうに違いない…




真っ青な顔をした浮竹に
ははっとなり
飛び上がって慌てる






「う、浮竹様?!まあっ!大変!
いかがなさいましたか?
浮竹様っ!浮竹様?!」




背負って運べる体力も無く、助けを探して
周りを見渡すは,すぐに

夜更けには不似合いの
派手な花柄の羽織を見つけ声をかける




「海燕!京楽様?!ちょうどよかったですわ!
浮竹様具合が急に悪くなってしまって。
卯ノ花のところへお連れするのに
手を貸して頂けませんか?!」





一人の帰りを待ち侘びていた浮竹を
影から見守っていた京楽、海燕は

に見つかった事に驚きもせず
二人静かに言葉を交わす







「…許婚ねぇ…。聞いたか海燕?」

「…はい…。よりにもよって、隊長の誕生日前日に…。」

「お、…もうその誕生日になってるぞ!」





夢と現実の狭間を彷徨う
浮竹の回りで
はオロオロとするばかりだ



「……う゛……っ!俺は…認めんっっ!」






京楽、海燕共にそれを助けるでも無く
呆然と眺め
二人同時に大きなため息を漏らす




「…撃沈だな。」
「撃沈…っスね…。」


「…京楽さん…。俺、隊長が気の毒でなりません。」

「…ありゃ当分寝込むな。
…海燕、お前しばらく隊長名乗っとけば?」

「…そうっスね。」













「…み、認めんぞぉぉお!!!………」







天女が贈った、氷の刀が生まれた日



冬獅郎が知らぬ所でおきていた


それはもう一つ





越えなければならない




壁の話






















  






完全に管理人ひとひらの個人的趣味入ってます。
日番谷君目当てのお客様、ホントすみません。
浮竹さん好きな方にも誤っとこ。
ごめんなさい。
第一部はこれにて一応終了です。
第二部からは、瀞霊廷に足を踏み入れた
日番谷君へと舞台を移します。