四楓院家に次女が産まれてから少し後、



長女夜一は二十二代目にして
初めての女性当主に君臨した。



父は隠居し、部下を育てる師となった




姉の人並み外れ、飛び出でた才に

歳の離れた妹,


天賜兵装番への道を
進む事を強制されずに済んでいた



戦う事よりも
幼い内から貴族や王族のしきたり等の

教養を叩き込まれた




大方一族はを、
いずれは母親が元居た王族へ

再び送る気だったのだろう。







夜一は、あまりに歳の離れた妹を
ただ可愛がるにも

どうも面白さに欠け、


任務から戻る毎に

共に互いを高めあうはずの開発局局長、

浦原が開発した奇妙な道具を



遊んでやろうと言っては
面白がってに試していた。






浦原にしても、王族の転生は興味深い

実験材料だったのかもしれない。





は、ようやく、自分の足で歩ける
ほんの子供に成長した頃


そんな浦原の研究材料と

夜一の悪戯と言う娯楽の一つに


自分がされているとは知る由もなく、




この日もまた、
久方ぶりに戻る姉に飛びついて


お気に入りをねだる。



「よるいちお姉しゃまー!
 おかえりなさーい!

 おねえしゃま今日はにゃんこさんじゃないの?
 はね、とりさんがいいの。」



は鳥の姿に。

姉が漆黒の猫の姿でいる事を

とても気に入っていた。




瞬神と呼ばれる夜一に、

唯一本気で鬼事をさせる
組み合わせとなっていた。



鳥の姿となった
捕える事が出来たのは

本来の姿の夜一のみだったのだ。








昼には金の羽を






夜には深い深海の蒼の羽を







自由に羽ばたかせ

飛び回る事が出来る



この鳥の姿になれる時が


幼い
楽しみだった



浦原の試したがる別の

怪しげな実験道具を余所に

一通り夜一との鬼事でじゃれた後


空高く舞う




「なんじゃ。もう終わりか。つまらん奴じゃな。」



 ・・・わしが居ない間でも自由に飛べるように
に持たせておいてやるか・・



姉なりの妹への不器用な可愛がり方。




「また逃げられましたか。残念、今日は彼女にこれを試してみようと…」



残念そうな浦原の襟首を掴み
姉はまた鍛錬へ戻る













は高い空から、瀞霊廷を見下ろしていた





はお気に入りの、

羽を休める場所がいくつか有る。




一つは、この姿になればとまることが出来た


目に見えぬ瀞霊壁の高い壁の一番上









二つ目は床に伏せた浮竹の枕元


流れる長い髪の上





「ん?か?また夜一にやられたか。」




なぜ鳥になると、は俺の髪に止まるんだ・・・



浮竹がそんな事を考えている間に
はふわりと飛び立つ



病んだ体が少し楽になった気がした



もう行くのか?



と言う言葉に聴こえない振りをして

次の場所へ















みんなが恐がって余り近付く事の無い


窓をすり抜けても長い長い部屋の奥


長い長い髭の上で羽をたたむ






「…か。お前は儂をなぜ恐れんのじゃ。」




膝の上に垂らした髭に乗る、蒼い鳥へ問う



「おじいちゃまはこわいことしないもの。
 
 どうして私がとりさんになっても、
  
 うきたけしゃまとおじいちゃまには、だってばれてしまうの?」




王族の血を分けた娘だからか



は護廷十三隊の総隊長である
この元流斎を恐れる所か


度々こうして滲入しては

髭に停まる



その様な事より、元流斎にとって
興味深い事実を

目に付けずに居られなかった。




、その鳥の姿は夜一が与えた物か?」



「ううん。ちがうの。はやくとぶ
 
 つばめのようにって、

 よるいちおねえしゃまは、いってたの。
 
 でもが、とりさんだったら、
  
 こんなのがいいっておもったら
 こうなっちゃったの。」





その言葉を聞くや否や
元柳斎はを、髭ではなく

自分の杖の上へ
とまって見せるように命じた





「おじいちゃまのつえは、ざんぱくとう?」




が元柳斎の杖へ羽を休めたその時


杖は炎に包まれ流刃若火へと姿を換えた



は驚く事も逃げる事も無く

その炎を羽を広げて纏う





「おじいちゃま、この子のほのおは、とてもやさしい」





驚いたのは元柳斎の方だった



自分がチカラを開放した訳では無い


流刃若火が自らを炎へ包んだのだ。


それ以上に驚かずには居られないのは





が灰にならずに戯れている事だった






、お前は…一体。なんという事じゃ」






杖をに預けたまま
支えるものが無い元流斎は、一瞬我が目を疑い
後ろの椅子にふらりとそのまま腰を落とした






「わたしにチカラをわけてくれるの?
 
 ねえおじいちゃま、すこしだけもらってもいいかな?」






いいか悪いか答える間も無く、その鳥の姿が
一回り大きく光り
天井に大きな穴を開け
金色の火の粉を散らしながら



高く羽ばたいた







「なんと?!鳳凰か?!!」






飛び立つ風圧で元柳斎の手元に
飛ばされた流刃若火は
僅かな光と熱を残し
杖へと戻っていた。



こんなに大きな穴を開けよって

が帰って来たら拳骨じゃ



その怒りも、空高く舞う大きな鳥の姿に

元流斎は怒りを忘れて
しばし見上げた





姉がなりたい鳥になれると
くれた短剣は

戦う術を持たぬ妹への最低限の身を護る刃として

王族と貴族の世界しか知らぬ妹への



自由に飛べる羽を贈った姉の優しさだった



姉である夜一自信も、こんな事になるとは
予想する事も無かっただろう



流刃若火に触れ

の霊力と




深く奥底に眠る魂を




小さな短剣に呼び起こし
流刃若火の炎の中で




は声を聞いた











         天涯に舞え  










          凰華















愛しい者を救えなかった



炎を纏って

自由に飛べる力が有ったなら




燃え盛る大切な場所から





あなたを護って





飛び立つ事ができたでしょうか






救えなかったあなたは


どこに居るのですか







心は痛いままですか








私に出会ったせいで




つらい思いをさせてしまったあなた






どうすれば救えますか




どうすれば償えますか








あなたに









会いたい











炎を纏い日の光を受け
金に輝く鳳凰の姿を得た


とても悲しい鳴声は


現世での記憶の覚醒と共に

深く切ない音色をたてて



尸魂界にいつまでも響いた










                       




次回ようやく現世ではぐれたまま放置の彼を出せます
尸魂界での再会はまだまだ先延ばしになりそうです(汗)
十番隊隊主室への道のりは長いっ
フォント変えすぎでさらに読みにくさ全壊です。




凰華〜ouka〜