静けさの中に君の香りを感じて



朝を迎える









「・・・っぐ!く、くる・・・しぃ・・・。」




突然の息苦しさに
冬獅郎は目を覚ます
やわらかな朝日が隙間から微かに覗く

・・・隙間・・・?





「・・・ぅ・・・ん…冬獅郎さん・・・」





空ろに寝ぼけたの声は冬獅郎の耳に
遠くこもって聴こえる


、どうした?と声をかけようとして
冬獅郎は柔らかな物に締め付けられ
息を詰まらせた





「んごっ!!!ぬっぐぅおぉぉぉ?!」





「・・・?冬獅郎さん・・・どこ・・・?」






冬獅郎の腕に抱かれ共に眠ったはずの
が、冬獅郎の頭を胸元に
きつく抱え込んでいる




「ぐっ・・・ご、ごぉぉぉおおお…・ぉ・・・・・」



「嫌・・・行っちゃ…嫌です…。」




は眠りとの狭間で
昨夜の夢でも見ているのだろうか



抜けそうで抜けずにもがく冬獅郎は


のこの、細い腕のどこから
こんな力が産まれるのだろう?
尸魂界において、人は見かけで判断してはいけない…

そう教えられた統学院時代を思い出す


が、そんな事を考えている間にも
は冬獅郎をぎゅっと
抱きしめ続けている






「・・・・・・う゛っ…ぅぅ。」



「…冬獅郎さん……?」




冬獅郎の低い呻きに
はようやく目を覚ます




「・・・?きゃぁ!!!冬獅郎さん?!」




自分の腕の中に埋もれた冬獅郎に
気付いたは慌てて飛び退いた




「ぶはぁぁぁぁあああっっ!!!!!!!
はぁっ・・・はあっ・・・はぁっ・・・。
・・・・・・。」




(・・・昨日の仕返しか???!!!)






「冬獅郎さん!おはようございますっ。」



冬獅郎がそこに居る事に安心したが、
にっこり微笑むのを見ると
怒る気持ちも消滅して行く




「・・・…ああ。・・・おはよう。」




目が合い慌てて敷布を掴み
裸身を隠すを冬獅郎は

視界に入らぬ様、目を逸らし着物を羽織る





が、その次の瞬間





「た、大変!もうこんな時間ですわ。お送りします!」




いつもなら寝過ごす筈など有り得ない
時計を見て飛び上がる





「お、お前?!ばっばば、馬鹿、ふ、服を着ろっ!」


身体を隠していた敷布を
はらりと解いた
思わず背を向ける冬獅郎へ、

は窓越しに声をかける




「この姿なら問題ありませんわ?」





の霊圧の変化を感じた冬獅郎が
振り返ったそこには


大きな羽根が舞う
黄金色の鳳の姿が在った








「……帰るまでその姿、絶対に解くなよ…。」





「はいっ。…??」



元気よく返事をしたものの、理由が解らず
はちょこんと首をかしげ
冬獅郎を乗せて飛び立った




大きな翼で空を仰ぎ
瞬く間に十番隊隊舎へと降り立つ






二人離れた昨日の帰りは
あれほど遠くへ感じた距離をこれほどに
短く感じさせてしまう理由は



が鳳へと姿を、変えているからか





二人しばしの別れの時を





――俺が惜しんでいるからか…







冬獅郎をおろして
ふわりと舞い上がるを見上げながら


冬獅郎は軽く手を上げた


「…行って来る。」



「はいっ!行ってらっしゃいませ!・・・あっ!冬獅郎さん!」



「心配しなくともちゃんと帰って来るから、待ってろよ!」






そう言って、冬獅郎は振り返らずに執務室へむかう



名残が尽きぬ事は、昨日で激甚なほどにまでに
深く身に染みている




「はいっ!えっ、いえ、あ、あの……冬獅郎さん!髪に・・・。
…行っちゃいましたわ・・・大丈夫かしら・・・。」





空からかける声は冬獅郎には届かず
二人、それぞれの時へと移る








いつも通り、誰より早く仕事に就いた冬獅郎に

遅れる事、一時間

昨晩の酒が未だに残った松本が、
気だるそうに
執務室へと入って来る



「う゛〜ん…おはようございま〜す、たいちょ・・・?!」



自分を見るなり、入り口で固まっている松本を
冬獅郎は、眉をしかめて睨みつける



「・・・何だ?」




「い、いえっ?!何も。さぁ〜今日も一日バリバリ働きますよぅ!」



松本は、ぎくりと目をそらし、急にバタバタと仕事を始めだす。

いつもでは有り得無い事に
不信感を抱かずには居られない。



「・・・気持ち悪いな・・・。何か悪い事でもおきなきゃいいが。」


「ぶっ・・!い、いえいえ。何も。あ、隊長、
私昨日サボった分、この仕事隊長の分までやっときます。」





再び振り向いて答える松本は
僅かに震えながら、笑いを堪えている





「折角の天気が、吹雪に変わらなきゃいいが。」






「失敬な!私はいたって真面目であります!隊長!
・・・ぶっ・・・ふふふふふっっ・・・」



…やはり明らかにおかしい。




「???」







「…隊長…カワイイ……ぷぷっ!」




聴こえぬ様に、松本は呟いた




冬獅郎の頭の天辺に、ひょこりとささった
黄金色の大きな尾羽



松本にはそれが
雛鳥を頭に乗せて居る様に見えた




(おもしろいから、今日一日だまっとこ。フフ…)





「…誰がカワイイって?」



「ひょおわわわわぁあああっっ!!!」




冬獅郎は背後からまとめた書類を差し出し
低く声をかけた

一人ほくそ笑んでいた松本は
飛び上がって驚いた後

バラしちゃつまらないわ…と、心で思いながら
しぶしぶ冬獅郎の頭を指差し

原因を知らせる




「乗ってますよ、頭に。の羽根。」




「ん?…それでか。」



冬獅郎は松本を攻める訳でも無く
ブンブンと大きく2度、頭を振って
ふわりと舞い降りる羽根を、手の平に受けた







――どうりで、今日は…





冬獅郎は掴んだ羽根へ
一瞥を投げ、瞬刻穏やかな顔をして
袂に収めると、机へと戻る








君の香りを連れて










――暖かく感じる訳だ。








窓の外を照らす、季節外れの暖かな日差しに、
冬獅郎は暫し目を側め

再び山済みになった書類へ筆を走らせる





その様子を静かに、眺めていた松本は
柔らかなため息を一つ吐いて

たすきを掛け直し、姿勢を正した




「……さ、今日も一日、仕事頑張りましょ!
……あぁっ!!!」



落ち着くのも束の間に松本、
書類に目を通し、改めて驚いた




「なんだ…。」



「隊長!今日って…12月21日。」



「それがどうした。…まだ何か有るのか?」



疑わしく思い、重ねて伺う冬獅郎に


知らぬが仏って言葉が有ったわよね、と
思いながら、松本は激しく首を振り
その場を誤魔化す



「いえいえいえ!ホントに何も無いですって!
早く帰れるように、私の分終わったら手伝いますから!
ほらっ!たまには部下を信用しましょうよ!」




今すぐ、帰らせてあげた方がいいかしら…。
でも…面白そうだから、このまま見守ろう
松本はそんな事を考えながら

一人ぐっと拳を固める







十番隊執務室にはこの日一日

副隊長の独り言と、
それを怪訝そうに伺う隊長の顔が
交差していた

















エピローグのつもりが
さらに続く事になってしまいました。
12月21日解る人には解る日付けです。
2万hit目指して頑張ります。

君の香りをつれて