冬獅郎より、うんと先に起きて
は朝食を作る

さわやかな朝日が差し込んで、冬獅郎を心地よく
目覚めさせる

支度を整え、二人向かい合って
朝食を摂り、仕事へ向う

十番隊隊主室の何気ない日常



そんなある日、冬獅郎が改まって
に、硬い表情で話を振る



、お前に言いたい事が有る。」

「…いかがなさったのですか?」



朝食を目の前にして、箸を付けずに
目を閉じる冬獅郎に
も改まって、両手を膝に置き
真剣に聞く姿勢に変わる




少しの沈黙を置いて、冬獅郎は
意を決して、今まで言わずに耐えて来た
疑問を、静かににぶつける




「何故…純和風な朝食に、牛乳が付いてくる?」




は目をぱちくりさせて
顔を傾ける




「…?何か…おかしいですか?」

「何かって!…お前なぁ」


の周りで、疑問符が沢山飛んでいる
冬獅郎は、大きなため息を吐いた


「どうしてですか???」

「…しいて言うなら…米に牛乳は、合わないだろ?」


「なぜ???」



きょとんとして、逆に問い返された冬獅郎は
嫌いだから、と言えないまま
牛乳の入ったビンと睨み合った後

指先で、の方へとこっそり押しのける




「ちゃんと飲んで下さいね。」


卯ノ花に毎日必ず飲ませるように
言われた





『日番谷隊長の為ですから』





と言った卯の花の言葉を思い出し

冬獅郎の為になるなら、絶対に飲まさねばと
着物の袂を押さえながら

むかえに座る冬獅郎の傍へと
牛乳瓶を押し戻す



「いらん!」


目を逸らして、悪態を付く冬獅郎に
はにっこり微笑んで、優しく告げる



「子供みたいに、我が侭言ってないで、ちゃんと飲みましょうね」

「子ども扱いすんな!」



牛乳から逃げる様に、箸を掴んだ冬獅郎は
乱雑に食事を始める


減らない瓶の中の牛乳を、眺めながら
は瓶に向けた、目線の延長線上に
いつの間にか部屋の隅へと、追いやられていた

小さめの器を発見する





「あぁっ!!冬獅郎さんったら、煮物の中の豆も
食べてないじゃないですか!」





「どう言う訳か俺にも解らんが…
そもそも豆って言葉自体が、俺には気に入らねえっ!」




にだって、全く解らない言い訳をして
冬獅郎は目を逸らす




副菜の内の一品として出された
煮物に入っていた僅かな豆だけが、綺麗に残されて

器ごと部屋の隅に隠されていた


何時の間に?!と聞き返すべき所だったが

の視点は別の所に
むけられて居た



「豆だって身体にいいんですよ?ちゃんと食べないと」

「…あんな物、食わずとも死なねえだろ?」



どちらを向いても、目線を追いかけて来る
目を合わさぬ様に、必死で目線を逸らす

冬獅郎はそうしながら、残りの朝食を
もくもくと平らげて行く



隅に置かれた、器を取って
冬獅郎の前に返すと、は再び
自分の朝食の前に正座して
箸を持つ


「食べてあげないと、豆は死んじゃいますよ?」

「嫌いなモノを俺に食わすなよ…」


食わされる俺の方が、どうにかなりそうだと
冬獅郎は、眉をしかめて
独り言の様に、ぼやく




「酷いですわ!嫌いだなんて…豆がかわいそう」



再び、隅へと追いやられる器を
救出しながら、護るように
そっと、中に入った豆を見つめる

冬獅郎はが、自分より
豆を庇われている様な、錯覚に陥ると共に

苛立ちが沸点に達する




「…豆豆……言うなーーー!!!」



その言葉と同時に冬獅郎は

足元に寝かせていた斬魂刀を抜く


食卓一面が一瞬にして、凍結する
その刀の矛先は、小さな器に向けられて居た






どういう訳か、本人にも解らなかったが






豆→小さい→自分→小さい→豆→小さい→自分





そんな言葉の方程式が

豆と聞くだけで、無意識に
冬獅郎の頭に飛び込んでくる

自分の気にしている、足りない背丈を

指し示す物と思わずには、居られない




凍りついた朝食には、気を止める事無く

はちょこんと正座をしたまま、変わらず箸を持って
冬獅郎へと、真剣に
視点のずれた、訴えを述べる





「豆だって、豆になるまで頑張って育ったんですよ?
食べてあげないと、豆の成長が無駄になりますわ!」



「だから、何度も豆って言うな!!!育っても所詮、この程度の大きさか?!」




冬獅郎は刀を納める事無く
矛先に有る豆を、殺気立つ目で睨みつける

それはもう、完全に敵を見る目だ



動かぬ豆にじりじりと、間合いを取る
今にも、食卓ごと貫きそうな様子だが

その相手が『豆』で有る事には変わらない




後から冷静に考えると

世にも、おかしなこの光景を
誰にも見られなかった事だけが、救いだろう




「小さくたって栄養豊富な豆は立派ですわ!!
豆を見かけで判断しては嫌です!」






豆→小さい→自分→豆→が庇う→が自分を庇っている





自分の為にと、必死で訴える
冬獅郎の頭の中で、法則が変わって行く



「…どう言う訳か、俺はコレと牛乳を
嫌わなきゃいけない。そんな気がしてならねえんだよ。」



「もうっ!良く解らない言い訳、なさってないで
ちゃんと牛乳も飲んで、豆だって好きになってあげて下さい」




いつまでも煮え切らない冬獅郎の様子に
悲しい顔になっただったが

このままでは冬獅郎の為にならないと
気分を入れ替えようとして


バンッ


と食卓を両手で叩いた




…その勢いにより、隅に追いやられていた、牛乳瓶が倒れ
無常にも、床へと中身が流れて行く








の長い沈黙が、静かに冬獅郎を襲う


(いや、こぼしたのは俺じゃない…俺じゃない筈だ…)


自分に言い聞かせながら、ゆっくりと
の様子を、その目で確かめる



「ひどいですわ…冬獅郎さん…ぅぅっ」



深く俯いて、小さな肩を震わせて
は、ぽろぽろと泪を零す



そんなの姿を見て、完全に自分を取り戻した冬獅郎は

懸命に自分の為を想い
心を鬼にして、嫌いな物を勧めた

の気持ちを考えると、詫びる気持ちが込み上げた



「すまなかった…もう泣くな、



そう言って隣に座った、冬獅郎の顔を
は泪を浮かべたままの、瞳でみつめて


微笑みながら、こう言った





「それじゃあちゃんと飲んで下さいますね?」






言葉と共に、冬獅郎の前には
封を開けていない牛乳瓶が、ずらりと並べられる



「お好きなのをどうぞ」


選ぶも何も、並んでるのはすべて
どう見ても同じモノだが?

蒼ざめる冬獅郎の隣で、は追い討ちをかける



「これなんか、特にお勧めだそうですよ?」




ドン!



と、冬獅郎の目の前に差し出されたのは
曰く、卯ノ花四番隊隊長特製




『コレさえ飲みきれば、身長が20cm伸びる牛乳(日番谷隊長専用)』






と大きくラベルに書かれた

一升瓶。


もちろん中身はただの牛乳だ
虫眼鏡で見なければ、解らないほど小さな字で

『注意:伸び具合は、個人差は有ります』

そう書かれている事は、二人が気付く理由も無く



冬獅郎は酷い眩暈に襲われて、後ろへ倒れそうになる






「沢山飲めば飲むほど、冬獅郎さんの為になるんですって。
なんでも望みが叶うとか。烈に教わりましたから、間違い有りませんわ」





泪を拭い満面の笑みで、こちらをみつめるを見て




(今初めて、心底あのおっさんに、救いを求めたいと思った…
泣きたいのは俺の方だ…)




冬獅郎は、ほんの少しだけ
浮竹の気持ちを、知った気がした









その日十番隊執務室には
恐ろしく顔色の悪い、隊長の姿が在った


二日酔いと勘違いした、副隊長は
人事のように笑いながら、冬獅郎の背中を
鼻歌混じりに、強く叩く


「ぐっぉおぅう!は、吐く!やめてくれ…本気で殺…うっ」


「酔ってますね〜?たいちょぉ〜」

「あぁ……」



珍しく、机に突っ伏したまま、仕事が手につかない冬獅郎に
乱菊は親近感を覚え、嬉しそうに声をかける


「で!何本飲んだんですかぁ?」

「…約8リットル…話しかけないでくれ、出そうになる。まだ…気持ち悪りぃ…」



「たかだかっ!一升で酔えるなんて、まだまだ隊長は甘い!
あっ!甘いで思い出した。これ食べます?
気分良くなるかもしれませんよ?」



乱菊は、ごそごそと袂を探り、何かを見つけて
冬獅郎へと差し出す。



「…なんだ?」



机に置かれた包みを、体調の悪そうな
冬獅郎に代わって、乱菊は
にこにこしながら開けてみせる




「甘納豆と、牛乳煎餅ですけど?」








その直後、崩壊する事となった、十番隊執務室の修復は
1ヶ月を有し、十番隊の中で

『豆と牛乳』

この二つの言葉が、絶対禁句となる


















  
小説のお礼と、キリ番のお礼を兼ねて師匠へ捧ぐ
ラルクの『link』を聞いてたら、こんなん出ました〜(死)
鋼読んでない方意味不明で、ごめんなさい。
ここの所ずっと真面目な?小説書いた反動が来て、脳みそ壊れてます


連鎖 〜氷の。〜