暮れ行く夕日を眺めながら
冬獅郎はの膝に乗せた頭を起こした

心配そうに見守るの隣に座り

掌を耳に当て、ポンポンと首を傾ける




「まだ優れませんか?」


「いや…さっきから左耳が聞こえん。」



はう〜んと考えた後
何かを思い出したようだ





「水が入っているのかも知れませんね。」




そう言われてみると、随分乾いたが先程まで
冬獅郎の髪はずぶ濡れだった

濡れた死装束は、体にこもった熱を
発散させたお陰ですっかり乾いている




は胸元からもう一枚出した手拭いで
冬獅郎の耳をぬぐう




「伊江村様が、水を掛けて下さって…」





「…頭からか?」





「ええ。天辺から。それはもう、沢山かけて下さいましたわ。」





にっこり答えるの横で
冬獅郎は思う






(…伊江村、次ぎに会ったら…絶対殴ってやる…。)






拳を作る冬獅郎を気にせず
は耳元を覗いて、水は取れたかと
確認しようとして居た




「冬獅郎さんっ俯いてちゃ、拭え無いですわ」


「ああ、悪ぃ。」



「じっとしてて下さいね…」



「……。」


が頬に、耳に触れて行く感覚が
妙に照れ臭くなり
冬獅郎は無言で目を閉じたまま
胡坐を掻いた



「これで聞こえるように、なったかしら?」






「……。」







無言で居るのは
先程交わした唇の余韻が残る身体に

悠然と構えて見える様、装う事に必死だったからだ。








「冬獅郎さん?…聴こえますか?」



「…。」



無言で目を閉じ
まゆを顰めて腕を組む冬獅郎に
は耳もとへ手を沿え

口を寄せてそっと囁いた





「冬獅郎さん…すきです」






相変わらずまゆを顰めたままの冬獅郎だったが
ほんの少しを一瞥した後
すぐに目を閉じて、ぽつりと答える







「…聞こえねーよ。」






「まだお水、取れてないのかしら・・・。」





もつられてまゆを顰めながら
困った顔をして、もう一度
息がかかる程近くでそっと囁く



「すきです。…聞こえますか?」





「…やっぱりきこえねー。」




ぶっきらぼうに言い放って
冬獅郎はすねた子供のように、外方を向く




「・・・だいすき。冬獅郎さん・・・」




は次第に悲しくなり悄げる 
聞こえを確認するよりも

想いを伝えたいと悩む








「まだ聴こえねぇ。」



「冬獅郎さん………だいすき。」





「…もう一度。言ってくれ。」




横を向いたままの冬獅郎に
は耳打ちせず、隣で正座をしたまま
冬獅郎をみつめて呟く


「…冬獅郎さん、大好き。」



その表情は今にも泣き出しそうだ






「…聴こえん。」

黙り込んでしまったへ振り向いて
冬獅郎は一言。









「嘘。」









そう言って
冬獅郎は、ふっとへ笑みを投げかける




「冬獅郎さんったら!非道いですわ。」



ぱぁっと明るい表情になったの顔は、
すぐに口を尖らして、横を向いてしまった
そんなに冬獅郎は懲りずに
少し意地悪く言ってみる。




「俺を嫌いだと言ったか?」



「違います!…あの…冬獅郎さん、大好きって言っ・・・きゃっ?!」




反論しようと、がこちらを向いた瞬間
冬獅郎はの手首を掴み

そのまま生い茂る草の上へと
背をふわりと押し倒す

驚いて目をぱちくりさせている

耳に軽く口づけて
冬獅郎は何かを静かに囁いた










「………だ。」


「…えっ?」







冬獅郎の声を流したのは


二人を囲う夏草の奏でる
少しだけ涼しくなった風の音





から見えるのは



優しくの頬を撫でる、白銀の髪と

木の葉の間から見える
少しずつ紅く染まって行く空と雲











「ばかやろう…何度も言わすな。
当分言わねーから、ちゃんと聞いとけ?」




「?」






























、俺だってお前が好きだ

























冬獅郎さん…
は冬獅郎の背に腕を回し
ぎゅっと抱きしめる


互いの想いが重なる事が
こんなにも幸せなのだと
改めて感じていた









が、二人、わずかに聞こえた人の声に
体が固まる









「いけっ!隊長、ここでぶちゅーっとっ!」

「副隊長…もう限界です。お・・・落ちる・・・」

「ば、ばか!見つかるって!!!」






「っ!?!」
「えっ???」






と冬獅郎は二人揃って木の陰から向こうの
鍛錬場を区切る壁に目をやる

その瞬間・・・









「あ、やばっ!あんたちょっと下がりなさいよっって!きゃーーー!!!」

「ああっ!松本副隊長、うっ!うぁあーー!!」

「おおおぉーーー!!!!」



ドゴーーーーン







「のわぁぁぁあああ!!!!」
「きゃっっ!」



ばさばさばさばさ
どさどさどさどさ…

いつからかこそこそと
二人の様子を覗き見ていた
十番隊副隊長はじめ、多くの席官、以下隊員数名が
冬獅郎との上に落ちた




「おまえら何やってんだぁあああ!!!」




落ちてきた隊員達を放り投げて
隊長は真っ赤になって怒鳴る



ずらっと正座させられて
頭にこぶを作った隊員達が答える




「隊長の強さの秘密を探る、特殊訓練です。」

「隊長のお体が心配だった為、護衛です。」

「隊長ほどの方に、気配を消して近づけるかの鬼道訓練です。」

「隊長の為に、いかに変な体勢でもじっとしていられるか忠誠心向上…


「やかましい!!!馬鹿かお前ら!!!」




十番隊鍛錬場の壁の向こう側には
立て掛けられた梯子が、ずらりと並んでいる


これは何か?と近づいたその時

ひときわ大きな冬獅郎の怒鳴り声が聞こえ、


様子を見に来た四番隊第三席、伊江村は
立ち寄るわけもなく、
逃げるように走り去った




ああ。大丈夫そうで、何よりです。
すっかりお元気になられたらしい。
今、顔を見せると確実に、何か悪い事に巻き込まれる…

もとい、彼らの修練の邪魔をしては悪いです。

そう独り言を自分に言い聞かせながら。







「隊長。公私混同、職権乱用!むしろ羨まし・・いえ、隊員の混乱を
招いた責任をとって、もう一度一人ずつ鍛錬をお願いします。」




冬獅郎に真っ先に破壊された
おそらく盗撮したと思われるカメラを握り締め
乱菊は見当違いの方向を指差しながら

あつく具申する





「まって、乱菊!私の責任です。」
「いや、は何も…げっ…!」




「いいえ。ここにおられる方全員鍛錬なさるなら、私がお相手いたします。」


は静かに立ち上がり
こおりの笑みを浮かべている


「どこからでもおいでなさい。一人ずつでは無くても、構いませんわ?」


ゆるやかに抜かれるの斬魂刀から
零れる炎が地を這い辺りを燃やす

一面が火の海になるのも時間の問題だ






「えええーっと!覗きは良くないって事ですよね!?隊長!」





「あ、ああ。そうだな、解ればいい。俺も公私混同は
隊長として避けるべきだった。すまんな皆」


「すすす、すみませんでした!」


「さっさと解散!」


蜘蛛の子を散らすように
隊員達は一目散に逃げ帰る




を怒らすのやめよう…。)
を怒らすのは避けた方がいいかもな…。)


十番隊隊長、副隊長は揃ってそう思った







「…、抜刀禁止。隊長命令。いや、許婚命令だ。」


「???はい。」


冬獅郎は柄を持つの手に
自分の手を沿える

迸る炎は冬獅郎の触れた場所から順に
氷へと姿を換えていった




このを抑えられる隊長だからこそ
みんなが慕って、が想う人になれる訳だわ…



「…小さいけど。」


二人の様子を見つめながら考えていた事が
最後の部分だけ知らぬ間に
言葉に出ていた松本に
冬獅郎の檄が飛ぶ



「何か言ったか?!松本!」




「いいえ〜!わたしも隊舎へ戻ります〜!お疲れ様でした〜」




隊舎とは反対の、外へ続く門へと
鼻歌混じりに歩いていく


ああ。またサボる気か…
そう悟って冬獅郎はがっくりと頭を垂れた



夜の虫が鳴き始めるほんの少し前の話


























     

佐久間か○様へ捧ぐ。
「吐くほど甘い続きで」のリクエストにお答えしたかったのですが、
あまりのこっぱずかしさに、ギャグ落ちです。
ごめんなさい。
か○様のみお持ち帰り可です。
日番谷君不足を補って頂けましたでしょうか?!





大好き