浮竹と冬獅郎の湯のみが、空になる頃
二人の前に

漆黒の猫と小さな鳥が、舞い戻る


先ほど出て行った時と同じく
彼らの真ん中を、何事も無かった様に通り過ぎ
縁側から部屋へと上がる



「そんな小さな身体で、儂に追い着こう何ぞ
100年早いと解ったか?

「夜だから、みえにくかっただけです!」



そんな会話をしながら、猫と鳥は
徐々に人へと、揃って姿を戻っていく

人語を喋る猫と鳥へ、目線を追っていた
男二人は

慌てて前を向き直す




の姉も人なのか?」




冬獅郎は浮竹を見ぬまま
静かに質問を投げる


「…ああ見えてもな。一応仮にも、人の子だ」



激しく背後が気になるが、こちらも揃って
空になった湯飲みはそのままに
変わらず月を見上げる


褐色の肌を露にした夜一は
同時に人へ戻ったが、子供の姿をしている事に
ようやく気付いた





「なんじゃお前、霊圧を使い果たしておったのか。
居場所が掴めぬ訳じゃな」

「姉さま、だっこ」


「仕方ないのう」



凡そ一世紀振りの再会に
甘える妹を拒む理由など、夜一には無かった
まるで母親の様に、優しく笑って
胡坐を掻いた膝の上へと、を招く


何とも微笑ましい光景の様だが

暗闇とは言え、二人が素っ裸のまま
話をして居る事に変わり無い


月明かりのせいで
冬獅郎と浮竹が座る縁側に
二人の女性の裸線は
くっきりと影になって、動きを見せる



放って置けば、永遠に続くかと思われた
この二人姉妹のどうにも
傍迷惑な行動は

月を見上げる首の痛みに、耐えかねた
二人の男が同時に上げた
悲鳴にも似た叫びによって、抑止される






「「服を着ろっっっ!!!」」








何やら不服を唱えながら、どこから出したか
夜一は自分の服を着て、そこに敷いてあった
寝具の敷布を掴むと、適当に

の身体に捲きつけて結ぶ



月明かりだけが、4人を照らしていた部屋に
こうして、ようやく明かりが付けられた


今日は散々な一日だと、頭を抱え嘆く家主
冬獅郎の事など、お構い無しに

真夜中の十番隊隊主室にて
閑談が始まった







「で、浮竹。ここは託児所か何かか?っておいっ!!」


夜一の視界から、隣に座った筈の



浮竹が消えている




振り返った先で、敷布に包まれた心地よさに
睡魔に襲われ、うとうととする
小さなを発見し

一目散に抱き上げる浮竹が居た




「あー!浮竹さまだっ!」



姉に気を取られていたせいで、は今頃になって
やっと、浮竹の存在に気が付いたが


嬉しそうに、頬を摺り寄せる
すっかり目尻が下がった浮竹は



親馬鹿その物だった




〜久しぶりに小さくなったな!
何か食いたい物は無いか?どこか行きたい所は有るか?
そうだ、今から雨乾堂に来るか?!」




あっという間の出来事に、目が点になった冬獅郎だったが

背中に巨大な黒雲が
轟音を響かせながら、立ち込める

大きな足音を踏み鳴らして
無言のまま、浮竹の前まで来ると

の首根っこを掴んで、浮竹から引っぺがす






「…に……
触るなっっ!!!!


大きな声で一括すると、両手にを抱いたまま
すかさず浮竹のわき腹に、蹴りを入れる


もろに入った浮竹だったが、片手でわき腹を押さえながらも、尚
胡坐を掻いて、ぽんぽんっと膝を叩き
を誘う



、俺の膝に座るか?さあ来なさい」

「死ね!馬鹿おやじ!!」


冬獅郎はを、背中で庇いながら
浮竹を睨みつける

今にも噛み付きそうな形相だ






「冬獅郎さんも浮竹さまもこわいよー!お姉さまー」


睨み合う二人の、ぶつかり合う視線の真ん中に
火花が飛び散っている


はどちらに行っても、争いに巻き込まれそうなのが
恐くなって、泣きそうになりながら
二人をすり抜け、夜一に駆け寄った





「やめんか浮竹!幼い子供に何をむきに
なっておるのじゃ。が怯えとるぞ」


夜一はを膝に乗せ
浮竹を一喝すると
改めて冬獅郎をじっくり眺めた


「浮竹。改めて聞くが、この小僧は誰じゃ?
と共に暮らしておるようじゃが…」




夜一の質問に冬獅郎を
横目で確認する浮竹に
冬獅郎は再び睨みで、視線を返す







「まさか…お前との子供だ等と、そこまで間抜けな冗談を
言い出したりはしないじゃろうな?」




夜一の冗談だか本気だか解らない質問に
浮竹は、そんな訳有るかと
言い返そうとして

状況を頭に描いてみた

浮竹の顔が
ぼんやりと歪んでいく



「おお!そんな風には、考えた事も無かったな、ああ。
悪くは無い、どうだ冬獅郎君、この際だから俺の養子にでもなら…」



すっかり気を良くした浮竹だったが
すべてを言い終わる前に

飛ぶ勢いにより、鋼鉄と化した

冬獅郎の座布団が額に直撃する



体勢を整え直し、改めて胡坐を掻いた冬獅郎は
夜一に顔を向けて

静かに言葉を放つ



「俺は、護廷十三番隊 十番隊日番谷冬獅郎だ、隊長をやってる」



浮竹に呆れ気味だった夜一の顔が
真剣な物に変わる


「ほぉう…その歳で隊長とはのう?末恐ろしい子じゃ」



「それは単なる肩書きだ。俺は―――」


「ぐおぅ、こ、こらやめんか、!」


冬獅郎が言葉を続けようとしたその時
夜一の膝の上へ座っていた
座っているのに飽きて来たのか

夜一の肩へ背中へよじ登って
遊びだす




「……はぁ。一度を、元に戻した方が良さそうじゃな」



夜一は溜息をつきながら
背中に乗っかるを剥がして
自分の前に座らせたが




敷布の間から覗く首筋に見えた
薄紅色の印の後に

一瞬目が留まり冬獅郎へと
視線を変える






(まさか……な?)







一つの疑問を抱きながら
夜一は自分の髪紐を一本外し
の首へと緩く捲いた


「おねえさま、夏なのに襟巻き?」


何を始めるのかと揃って
横目で見守る男二人を余所に

は夜一に捲かれた髪紐を、不思議そうに眺める



「とりあえずその状態では、話も聞けんからのう」

「?」

「戻っても暫くは、そのまま首から外すで無いぞ」





夜一が言い終わるころに、の身体は
霊圧が変化し始め
体と共に、徐々に大きくなって行く



夜一より少し小柄で
褐色の夜一とは対照的な
雪のように真白い肌を持つ
本来のの大人の姿が現れた



「姉様、ありがとうございます」


「夜一…余計な事を。せっかくの、俺のが…」

「誰がお前のだ呆けっ!!」



が元に戻ってしまえば、浮竹の親馬鹿ぶりも
少しは、ましになるだろう


そう考えた冬獅郎がほっとしたのも束の間

浮竹の視線に
はっとする


が纏っていた敷布は
体が大きくなった事により、はらりと解けて
すべてが露になって居た





「っ!!!」








ガゴッ!!!








浮竹の脳に、大きな音が響く





「お前は見るな!!!、早く服を着ろ、馬鹿!」




呆然と見とれていた浮竹の顎を
冬獅郎は拳骨で殴り
かなり乱暴な手段で、浮竹の視線を
から避けさせる

その勢いは浮竹は、顔面を壁へとぶつけさせる事となる







別室にて着物を身に纏い、髪を束ねた
部屋に戻ってすぐ視界に飛び込んで来た

壁に直撃したせいで鼻から血を流す浮竹に
理由がわからず、一瞬驚いた後

冬獅郎が発する厳しい視線を感じ
すぐに顔の向きを戻して
冬獅郎の隣へ、正座する




「夜一お姉様、ご無事で何よりです。おかえりなさい」



改めて夜一の帰りを喜ぶ
夜一は、やっと姿を戻した妹との
再会を喜ぶのもそこそこに

すぐさま疑問をぶつけた




「お前こそ逞しく育って何よりじゃ。
で、例のお前の想い人とやらはどうした?
なぜお前が十番隊隊主室に住んでおる?」


「理由は説明すると長いのですが。
こちらの方がわたくしの……」



夜一に紹介しようと
こちらを向いたの前に手をかざし
冬獅郎はの発言を制止する





俺が言うべき事だ、お前は黙って聞いてろ



冬獅郎が心の中で考えた事は
言葉にせずとも、に伝わった

は、冬獅郎の隣で
静かに瞳をとじて
姉と大切な人との会話の行方を
見守る事にした




「話を割って悪いが、さっきの話の続きが先だ。」



「…まあよい。言うてみい」



大きな瞳で力強く視線を刺す冬獅郎に
夜一も同じく、大きな瞳をむけて返し
静かに聞き直す






「十番隊長は仕事上の肩書きだ。」



「うむ。」



「俺は、の婚約者だ」





冬獅郎の放った一言により
夜一の黒目が一瞬だけ

猫の目になった事は



冬獅郎だけが気付いた















  

連載そっちのけです。
もうホントこの3人を愛してやみません。
後編はシリアスで頑張ります。
リクエストがあったので、続編もその内書きます。
りんちゃん様土方様ありがとう!!
許婚の姉は猫