「シロちゃん!!大丈夫?!」




「…雛・・森?」





冬獅郎の前に立ち塞がり
虚からの攻撃を食い止めたのは

同じく卒業試験を受けた
幼馴染、雛森だった



「ばかやろう!お前、退けと言ったろ!」


冬獅郎の投げつけた声に、耳を貸さず
雛森は刀を退こうとは、しなかった





「「―弾け!飛梅!!!」」




雛森の斬魂刀は、高く上げられた声と共に
その容を変える




「雛森!お前…始解を…」


冬獅郎の声を遮る様に
雛森は背を向けたまま言った



「愛染隊長に救われたあの日から
愛染隊長の元で共に働く事、それが私の夢だもん!」



雛森は顔をこちらへ傾ける事無く
前を見詰めて言葉を続ける



「そのために死ぬ気で努力して、やっとここまで来たのよ!
こんな所で死ぬ訳にいかない!!!」



「待て、雛森!危な…」



制止しようと肩を掴んだ、冬獅郎を払い除け
雛森は足を踏み出した





このままでは…自分より先に、雛森は死ぬ





冬獅郎は額から流れる血を、乱暴に拭い
態勢を立て直そうとした


だが、その時



虚の鋭い爪が冬獅郎めがけて
再び振り下ろされた




「危ない!シロちゃん!!」




冬獅郎を庇った雛森は、その爪によって
大きく向こうへ跳ね飛ばされた




「雛森っ!」




鈍い音をたて、遙か遠くへ落ちた雛森に
目を凝らした冬獅郎は、すぐさま幼馴染の姿を確認する


ここから見る限り、かろうじて息は有るようだが
雛森が倒れたその地面には

流れ出る血がじわりじわりと、小さな池を作っていく




駆け寄ろうとした冬獅郎だったが
背後に漂う威圧感に不快を覚え
その視界をゆっくりと、自分の後ろの空へと変えた


振り返った視線の先には
空を裂いて顔を覗かせていた大虚が

重い地響きをたてながら、巨大な足を踏み出し
体の大部分をこちらの世界へと
乗り出して来る姿が映る









「くそっっ!!!」






冬獅郎は淀んだうねりが迸しる
大虚を見上げ

歯を噛んで誹謗を吐き捨てる





絶望し、すべての意気を阻喪した冬獅郎は
どこからか聴こえて来た声に気付き

はっとして、沈めかけていた顔を上げた





回りの時間が止まった
色の無い空間で

それはまるで自分の意識に、直接問いかけて来る













『―ここで終わりか…冬獅郎』








「お前は…氷輪丸か?」




すべての物が
凍ったように動かない景色の中で


目の前に現れた白銀の龍と、自分だけがそこに存在した



白銀の龍は、ゆっくりと

冬獅郎へ真意を質す










『目の前の者すら、守れないお前が一体どこへ向う―』






氷輪丸に問われ改めて冬獅郎は
自分の意識に触れた






俺は…ここですべてを投げ出して、ただ死を選ぶのか?


目の前の壁から目を背け
目の前の幼馴染すら救えずに


の元へ行くと願えるだろうか


その答えは余りに容易に解る
辿り着ける筈が、有る訳も無い



俺の思い定めた願いは





ここで頓挫を来すれば、すべてが無になる




に再び出会うために、ここまで来た





待ってろと、言ったのは俺だ…殺られて堪るかよ







あいつに迎えに行くと誓ったのは俺だ








『今のお前に欠く物は何かと、解せるか冬獅郎』









死ぬ覚悟じゃない





















――――――生き貫く覚悟だ



















「壊すかも知れ無いなんて言って悪かったな」


自分の力を

自分の想いを

信じて前へと進む




俺のすべてをお前に預ける






もう一度俺をの元へ導いてくれ





俺は生きたい


生きるために前へ進む










『――見つけたか…冬獅郎』


「…ああ。ついて来い、氷輪丸」




冬獅郎、お前の声、お前の覚悟を
届き入れよう

共に行こう
お前の進む道を

示す導となってやろう










…呼べ冬獅郎










未来へと希え














「「「卍解!!

      大紅蓮氷輪丸!!!」」」













冬獅郎の叫びと共に、踏みしめた大地を突き破り
四方一面は氷山と化した

辺りに群がっていた虚は
瞬時に氷の塊へと変わる



全身に迸る霊圧を絡ませて
肩から背後には、巨大な氷の羽根が纏い

刀を持つ右手は、まるで飲み込まれたかの様に
氷の龍と同化する
冬獅郎は体中に、氷輪丸を感じた


それは極限に冷たく
酷く落ち着いた冬獅郎の霊圧に
大気は共鳴し、凍った空気の渦を捲く









『―来るぞ、冬獅郎。』







――今の自分の霊圧では、卍解を保つのは一撃が限度

冬獅郎は全ての霊圧を、氷輪丸へと送った








「ああ、ひと振りで追い返してやるさ…」










急速に霊圧を高めた大虚は

冬獅郎に向って虚閃を放つ



冬獅郎の全身を、氷の羽根が盾となり覆い
虚閃を弾き返す


その瞬間、残像を残して、冬獅郎が踏んだ大地は
迫り上がり、瞬く間に高く氷の柱が伸びる



冬獅郎が氷輪丸と混じた右腕の
斬魂刀を掲げ、太陽の影となったのは


大虚が向けた表情の無い
仮面の目前だった









「消えろ。」








冬獅郎はそう一言吐き捨て



大虚向け斬魂刀を一気に振り下ろした



その一撃は轟音と共に
大虚を頭の天辺から
大地に伸ばした足の先まで
全てを凍結させる程の物だった





残る所無く霊圧を、尽き果たした冬獅郎は
卍解が解けた斬魂刀と、砕ける氷の柱もろ共
地へと崩れ落ちる




「どうなってんだっ…くそっっ!」





あと一振りもすれば、凍りつき固まった大虚を
粉砕出来たのかも知れない

しかし、空の裂け目から一体、また一体と
凍った大虚を合わせて三体の大虚の顔がそこに覗く




「…有り得…ね………」


ゆっくりと薄れ行く意識の中で
細く閉じ掛けた視界の中で
冬獅郎が記憶に残った最後は

一本の鋭い閃光が走り、凍りついた大虚が
一刀両断された太刀筋と

それを振り下ろしたであろう人物の、背負った





『五』番の文字




「…五番隊…隊長か…、来るのおせーよ…ばかや…ろ……」






すでに目を開けることさえ出来なかったが

それでも身体で、感じる事が出来たものは
地に落ちた筈の自分を受け止めた何かだった


地よりも遙かにしなやかな感覚と


嗅覚に届いた何より穏やかな
懐かしい香りがした



酷く優しい感覚に眩惑される様に
その何かの上でゆっくりと

冬獅郎は深い眠りに意識を委ねた























  
もはや、ドリー夢とは程遠く
トキメキは皆無です。
ヒロイン居なくてすみません。
第2章の終わりに再び戦闘シーンが
出て来るので、その時までにもっと
精進します。
誰だこんな大変な設定にしたの。
私だ!?…がくり。
次回は色んな人出ます。


覚醒