「浮竹様、梅を預かって来ましたわ。」


「すまんな、。皆は元気だったか?」

「ええ。とっても。」


俺が床に伏せている間、は自分の仕事の
合間をぬって、俺の弟や妹、家族の世話をやいてくれた

弟妹は揃って、言う

が俺の嫁になれば嬉しいのにと。





風呂敷から着替えの着物を出して
畳むに浮竹は床の中から声をかける





、俺との婚約の件は考え直してくれたか。」

「嫌ですわ、浮竹様ったら。まだそんな
ご冗談をおっしゃってましたの?」



彼女は疑う事も無く笑顔で聞き返す。


。おまえ…まだ例の許婚とやらを待ってるのか?」

「あら、いけないかしら。わたくし冬獅朗さんと
お約束しましたもの。」


俺との縁談が持ち上がったあの日
は凰華から生れ落ちた刀を持ち出し
瀞霊壁を超え流魂街へ逃げ出した。



戻った時には刀は無く、
許婚が出来たと
みごとにあっさり
俺を振ってくれたもんだ。




が幼き日より
兄妹のようにいつも傍で見守ってきた。

どこの馬の骨とも解らない
この先現れるかどうかすらも知れない






そんな奴には絶対にやれん。



その大方は俺の意地だが。




と顔をあわせる度
気が変わらないか?と
想いを告げてきた。


その度に、いとも容易く、
この調子で断られ続けている。




隊長として隊主室を構え、
離れて暮らすようになった家族にも

は俺の変わりに、会いに行き、世話をしてくれる

そのせいか、親戚一同からすっかり気に入られ
浮竹家にも馴染んでいる




と共に居る時間が長いほど
体調がすこぶる良くなる俺を

はさぞかし喜んで
受け入れてくれるだろう







一緒に居る事が余りにも自然だった








それがいつか当たり前になり
この先もずっと俺の傍に居てくれる様になる



そう勝手に楽しみにしていた。


そんな浅はかな期待は
見事に敗れ去った


…という事か?






何故は、ここまでそいつを待つのだろうか。


会うたびに、『とうしろう』、『とうしろう』と言われる
俺の気持ちを解っているのか居ないのか…




『とうしろう』・・・




『とうしろう』?



俺は今頃、
とあるくだらない事に気が付く







「とうしろう・・・・って?!?あっ!
 あのなあ!
俺の名を知ってるだろう!」





「浮竹様ですわ?」

はきょとんと答えた。





「・・・・はぁ・・・。十四朗。浮竹十四朗だぞ?」




浮竹は起き上がって、に問いかけた




「まあ!冬獅郎さんに似ていますわね!」





ぱあっとの顔が明るくなる。

出来れば避けて欲しかった
浮竹の思い通りのの反応に

がっくりと肩を落とす






響きが似すぎている。


なんでまた選りにも選って
・・・読み方を変えれば、
同じ名前なんだよ・・・。




あの時…俺を呼んだと思っていたのは
ずっとそいつの事だったのか?


・・・
お前、そんなに俺が嫌いなのか?



浮竹は再び床に伏せて
拗ねる様に布団をかぶる




「冬獅朗さん、浮竹様のお名前を知った時、驚かれるかしら。」




下らない事でさらにへこむ浮竹に
は、うふふと嬉しそうに微笑む。




驚くのはこっちの方だ・・・
をこんなに夢中にさせる
『とうしろう』とか言う男。





どれほどのものなのか
こうなれば是が非でも
俺の前に現れてもらおうじゃないか。


そいつにあきらめさせれば、も気が済むだろう。
そんな事を考えて、布団の隙間から
の様子を探ろうとした浮竹に


は、ぐんっと顔を近付けて



顔色が元気そうなのを確認すると
安心したようにこう言った。




「浮竹様、冬獅郎さんが隊長に就いたら、
色々教えてあげて下さいね。」






ああ。俺の方がに如何に相応しいか
と、言う事を色々と説教してや・・・


…ん?ちょっと待て。



隊長に・・・就く?


隊長に?!






!なぜそんな事を?!」




浮竹は、がばりと起き上がって
の両肩を掴んで詰め寄った


「だって姉さまはまだお戻りになられて居ませんし、
砕蜂は姉さまの事しか聞いて下さらないでしょう?
ギンは乱菊に悪いですし、藍染さまはわたくし苦手で…
おじいさまは新しい方には厳しいでしょう。
 烈は怒ると怖いですし…それから…」




「いや…、そうでは無くてな、」



おそらく死神では無い筈だ
『とうしろう』という名は聞いた事が無い。



入隊すらしていない筈の奴が、
いきなり隊長になった場合の話か?
浮竹はそう聞きたかったのだが・・・


指を折って一人一人を数えて、それぞれの事情を
事細かに説明している

浮竹はやれやれと項垂れて
大半が耳に入っていなかったのだが






最後にが言った言葉は
浮竹の耳をぴくりと動かす



 
「・・・ 私が安心してお願いできるのは、浮竹様だけですの。
 やはりご迷惑かしら・・・。」





は俺の問いに
大きく勘違いしているままだったが


頼れるのが自分だけだ。と
が言ったように感じて、悪い気がし無くなる



俺は少し嬉しかった




「やれやれ。にはかなわんな。
その『とうしろう』とかいう奴は幸せなもんだ。」




浮竹は天を仰ぎ、ふうーっと大きなため息を吐き出した
が幸せになるのなら
望む事を叶えてやれるのなら

それもまた浮竹にとって幸せだと思えた






「あら。わたくしが、しあわせなのですわ。」






は溢れる笑顔を、冬獅郎への想いをこめて


浮竹に向ける



たとえそれが自分に向けたもので無くとも…




それもまた、俺の心を惑わすと言う事を
は今日もまた知らずに過ごす









・・・には敵わんな。











俺は当分また、を見守ろう。



そう決めざるを得えない
幸せそうな笑顔に誓う。



その後、高みへと
名を轟かせて来た奴の姿に、







俺は二度驚かされる事となる。












  


第2章1話の続きは?
…この後です。
随分前に書いたものだったので、
ちょこっと加筆しました。
第2章は浮竹さん贔屓で進めます。
冬獅郎と十四郎