いつもと変わらない朝




いつもと違ったのは






嫌な圧迫感を感じるせいで

普段はめったに
見上げる事も無い

瀞霊廷の見えない高い壁を




それより遙かに低い丘から

眺めていた事ぐらいだった







俺はぼんやりと
そこに何かを見つけた。






「ばあちゃん、あれは天女か?」






空を見上げて俺は独り言の様につぶやく





「天女?桃ちゃんに話して聞かせた
 あの物語のことかい?
 何だ、獅郎もまた聞きたいのかい?」




散歩に付き合った婆ちゃんが
疲れた様子で答える





「そーじゃねーよ!ほら、
 その羽衣を盗まれて・・
 とか言う話の奴ってあれか?」





「獅郎は何だかんだ言っても子供だねぇ、
 天女は物語の中のお話だよ」





「ばあちゃんは歳くってて見えねーだけだよ!
 あれだあれ!ほら、少しずつ近くに・・・」







艶やかな羽衣を纏って、

天女は自分達の居る丘の上に
舞い降りた




いつの間にか走り出した足は



引き寄せられるように
天女の元へと駆け出す




近くまで来ると、
羽衣に思えたそれが

大きな翼の形をした

蒼い炎のだと解る




炎が消えると共にその翼を消し
背を向けていた天女は振り返る


少し驚いた様子でこちらをみつめ
微笑んだ





さらさらと長く
陽だまりのような色の髪から

ほっそりとした顔が覗く





歳は俺より上だろう。
俺から観ると
大人の女性の様に見え



まだまだ子供だった俺が
初めて俺と女の違いを知った気がした



その姿は、凛として


肌を白く透き通らせる







俺は……




瞬く事すら出来なかった







この世界に来て美しいと感じたものなど
出遭ったことが無い





この先俺はきっと

この瞬間以上に



綺麗だと思えるものに
出会う事は無いだろう






初めて見るその妖艶さに
捉えられ身体は震え、
足が凍る







「おい!お前!」








唯一動いた口が、頭で考えるより先に言葉を発した





    







 「…俺の嫁になれ!!!!  」










俺の言葉は
具にも着かない事だったろう



ただ俺はこの天女を
物語のように空に還したくない


俺だけのヒトにしておきたい



まだ嘴の黄色い
この時の俺だからこそ
素直に心がそう願った





その願いはその言葉で
きっと叶えられると思ったから






天女は俺の足元に跪き
震える俺の手をとって

顔を見上げ





 「喜んで」





音色を立てたような声で答えた





 「わたくしは 。あなたは?」


 「・・・・。俺は日番谷。 日番谷冬獅郎だ!」


 「冬獅郎さん。これを・・・」





そう言うと、 という名の天女は
胸に抱えていた長い包みを
俺の腕に預けた



予想より遙かにずしりとした
包みの重みに


凍った体がふらりと融ける




「今わたくしがここに居ると、冬獅郎さんや他の方にも
 ご迷惑を掛けてしまいますわ。
 わたくしの代わりにその子を残しますわね」




悲しげな音色が伝えられる





「俺がお前を!  を迎えに行く! 
 必ず、必ず迎えに行く!
 だから・・・・!ちゃんと待ってろよ!」




包みを渡し再び青い羽を広げた天女が

再び手の届かない場所へと
還る事を悟った俺は


そう叫ぶ事しか出来なかった



「ありがとう、冬獅郎さん。

 ・・・わたくし必ず待っていますわ」





胸の痛みを隠し
天女はまた空へ戻り行く

あの高い壁を抜け
姿を眼に入れる事が出来なくなった後も





俺は何度も の名を空へ呼んだ







埋まる事の無かった俺の欠片
その答えを見つけ出した




始まりの日だった





      
一部書き換えたり色々いじりました。
全然良くなってなくてごめんなさい。
気付いてくれた人ありがとう。