幾度の冬を越えて待ち侘び続けた


愛する人



やっと廻り会えた喜びよりも
心を遮る物は

あなたを導いてしまった私の




大きな罪




何度生まれ変わっても
求め合う魂が
あなたに痛みをもたらすのならば



十二因縁すべてを無に還し私一人が



永遠の孤独と痛みを背負えばいい






悲しみに満ちた蒼い炎は
紅い炎よりも遙かに深淵の焦熱


畏怖の念を与える五感さえも
余さず焼き尽くし

すべてが飲み込まれそうになる





「ぐっ!!……!」





俺は止めることは疎か
見届けてやる事さえ出来無いのか





の激しい霊圧の高まりは
部下達の壁となる浮竹さえも強く圧す



動ずるな



動じてはならん



地を踏みつける両足に
言い聞かせるしか出来なかった


浮竹がきつく目を閉じて
唇を噛んだその時

の声を聞く








「あなたを無へと還します」








の声と同時に、蒼い炎を纏った霊長は
結界内をぐるりと飛んだ


卍解の解放により場内に押し寄せた
焔をすべてその翼へと集めて

の元へ舞い降りる




やがて姿を本来の斬魂刀へと変え
の両手がきつく鞘を握りしめた



唯一つ、解放前と異なっていたのは
蒼い焔が刃の先から
の腕までを飲み込んで

溢れる霊圧をの背中へと流し
背負う十番隊の定紋に


大きな蒼い羽根を広げさせた事





場内を抑圧していた大気が
静けさを取り戻し
隊長ではない者達の緊張が、僅かに解けた



「あれ…?どうしたのかしら」

「…!う、浮竹隊長、これは…」




部下の声に浮竹は
はっとしての方へ視線を向ける



は、周りの者達を巻き込まない為に
乱れ散る炎を寄せたのだろうか?




…お前!」



違う、それだけでは無い



手の中の短刀に霊圧を集めたのは
その全てを冬獅郎に向けて


卍解を射つの覚悟だった



今のに浮竹の声は
心遙か遠く、届く事は無かった







瞳をとじたまま冬獅郎は
大きな息を吐き出して、ゆっくりと目を開けると
深い蒼翠の瞳で真っ直ぐに


を見つめた





「俺は…消えねえよ」




冬獅郎はそう言うと
眉間に僅かな皺を寄せながら
へやわらかに笑いかける




は冬獅郎から視線を外すように
俯いて小さな低い声で言葉を返した




「解らずともその身に知るでしょう」







空帝で貫けばあなたは魂すら消滅し
転生廻る事も無い

痛みを感じさせてしまう事さえも
無くなるでしょう



ただそう願って



チカラのすべてを斬魂刀へ込める






あなたが消える事を願って






あなたが消える…?


なぜ…





この痛みすべてを私一人が背負うために





冬獅郎さん


あなたの傍に居たいと願うのは…私の罪




痛い…心が押しつぶされそうに激しく痛む


止めては駄目だ

空帝を彼へと放てと



意識の奥で、何かが呪文の様に指示を出す






ゆっくりと顔を上げた
両手に全ての霊圧を集めた

燃えさかる焔は、一際明るい閃光を放ち
周りの空気を押し上げて
場内を覆った結界さえも空高く突き抜け

激しい渦を巻く




がようやく向けた顔に
冬獅郎の表情が僅かに曇る


眉間に大きな皺を寄せ、眼光鋭く
の瞳の奥を見定めた






「解ってねえのはお前だ、!!」





にむけた冬獅郎の声が響く中
翔けだした翼は、羽ばたきを止める術を持たず

熾烈を極めた速力で刃が走る








消えないで…



逝かないで…愛する人



どうか



どうか逃れて…冬獅郎さん







『それが君の罪だと言うのだ

愛しい者が危険が伴う道へ、進もうとして居るのならば…
一層のくされに、二度と危険が来ぬよう…すべてを無に還すのも

………優しさと言う物では無いか?』




の脳裏に再び声が響く


違う!優しさなんかじゃない
だれ…誰なの?




意識の奥で、悲鳴にも似た叫びが上がる


何かに支配された感覚は、の心を掻き消して
冷たい声を発させる







「さよなら冬獅郎さん」





俺が消えればいいと
心底願いを込めるのならば




、お前はなぜ泪を零す?






「心配すんな、。俺は消えねえよ」




冬獅郎はそう言って
その場を動く事無く刀を構えた


愁嘆の蒼に染まる炎を高く揚げて

床一面に迫り出した氷解を打ち破り
蒼い霊鳥は、地を這うように迫り来る


砕かれた氷の全てが
欠片となって、地に落ちる間も無く消滅し
冬獅郎の右腕を飲み込んだ氷の龍に触激する






「!!!」







その瞬間、落雷の如く
閃く激しい光が全てを覆い
眼界を残す所無く、皎白の世界に変えた


耳鳴りと同時に聴覚が捉えたのは

氷の翼が砕ける鋭く高い大きな音と
それらが落ちた重い轟きだった






が全ての霊圧を冬獅郎のみに、向けた事と

刃が交わる瞬間、総隊長自らが壁となって
周りの空間を凍結させた事により

二人の行方を見守っていた者達が
結果、唯一受けた被害と言えば


余りの眩しさに、目眩を起こすものが数名ばかり






閃光が消える前、誰より先に
浮竹は声を張った



「無事か!!」




周りにいた者達の無事は、霊圧で感じられた


しかし霊圧を使い果たしたであろう
冬獅郎との気配が消えた



総隊長の壁は皆を護ると同時に
飛び出そうとした浮竹を遮る物でも有ったが

今、浮竹の震える体は
有りのまま結果を受け止める事を恐れ
固まる足が踏み出せずに居た






頼む…どうか無事でいてくれ…







眩い光は徐々に薄れ、視覚が取り戻されて行く

しかし見えるのは、大地を巻き込んで上がり
未だ場内を曇らせる土煙

緊縮した空気の中に一つ
重い金属が地面に落ちる鈍いが鳴る


まるでその音が合図のように
止まっていた時間が再び、動き出した





「…何…故……?…何故です!」






浮竹がいる場所では聞き取れない
の搾り出すように微かな小さい声が
冬獅郎へ問いかける


その声からすぐ後に
先ほどより甲高く、軽い金属音がもう一つ

鳴った




「あれは…」


土ぼこりの中、光が反射して
浮竹が居る場所から微かに見えたのは
冬獅郎との手から零れ

折り重なるようにして地面に落ちた



二本の斬魂刀




「!!」




飛び出して駆け寄ろうとしたのは、乱菊も同時

しかしすぐさま元流斎の長い杖が
二人の行く手を遮った



「暫く待ってやらんか二人共」



総隊長の低い声は、二人の動きを止めて
持つ杖で静かに二本の斬魂刀を
静かに指し示す




ゆっくりと消える煙の中に
ぼんやりと浮かび見えて来たのは



互いに卍解が消えた冬獅郎との姿



冬獅郎の左手がの右腕を
掴んでいるが、冬獅郎は微動だにしない




「あの子…泣いてるわ…まさかっ!」



僅かな霊圧を感じ取った乱菊が
が生きていると解って
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間


冬獅郎の顔を見つめたまま
の瞳から
涙がこぼれ落ちて行くのに気付き

冬獅郎は死んだのだろうかと
乱菊が浮竹に問い掛けようとした
まさにその時



俯いたまま止まっていた冬獅郎の
口元がゆっくりと動いた





「なぜだと?……空帝は標的を消す為の
物なんかじゃねえからだ!!」





冬獅郎の怒鳴り声が
会場内に大きく響きわたる


「二人共…い…生きてるみたいね。浮竹隊長?」

「あ…ああ」



総隊長の隣で心配していた二人は
突然の出来事に、思わずたじろいだ
冬獅郎の着物は衝撃により、激しく損傷していたが

これだけの大声が出せたなら
恐らく体の心配はしなくて済みそうだ




一方、の方はと言うと
目の前で突如発せられた大音声に
まるで、悪戯を叱られた子供の様に

目を丸くしている


そんな事はお構い無しに、冬獅郎は
言葉を続けた




「空帝は虚無へと還す者じゃねえ…
蒼い空を照らす光を導く者だ」


「空を…照らす?」



戦いによって解けたの長い髪を
緩やかな風が静かに揺らす


の腕をきつく掴んだまま冬獅郎は
結界が壊れ淀んだ空を静かに仰ぐと
まっすぐにを見据え直して

瞳の奥に強く訴える





「乾ききった空に水を作り、潤いを献ずる。
氷輪丸が座する場所は、凍りついた空なんかじゃない

お前が笑う春の如く澄んだ空だ!!!」





は力が抜けたように膝を付いた


何も、言葉を返せなかった


雪が融け花が咲く柔らかな
春の日差しが好きだと笑った

短くも、二人ともに過ごした穏やかな日々の
遠い記憶が呼び起こされる


は氷輪丸の上に落ちた
短刀へと顔を向けた



「凰華…」




二つの刀の氷と炎の羽根が
共に砕け散ったとしても


消える事無く寄り添って



たとえ何度逸れても
冷たく輝く月を照らすのは

その身を焦がす太陽のように


いつだって二人
引き寄せあう対で有ればいい


冬獅郎がそう願うように

を止める事無く氷輪丸を撃ち
凰華が主に伝えたかった事が
冬獅郎の言葉によって


ようやくの意識をほどいて行く





ぼんやり二人をみつめる京楽の隣
張り詰めていた緊張が
極限に達する寸前の七緒の背後で

穏やかな声が聴こえた



「…ここはもう心配なさそうだね。
僕は外に被害が無いか、見て来るとしよう」



「…えっ、藍染隊長?!何時から後ろに
いらっしゃったんですか?!?」


驚きの余り飛び上がる七緒に
藍染は優しく笑って
すぐにその場を後にした










場外に出る、人気の無い
長い階段の途中、藍染の足が止まる




「催眠が解かれるやなんて、珍しい事も
有るもんやなぁ?藍染隊長」



声の主を確かめる事無く
藍染の足が再び歩き出した



「彼には姫君を抑えて置く手間を、
背負って貰ったまでさ。
…暫くは、下らない余興を楽しむとしよう」



そういい残して藍染は
階段の影に立つ市丸へ軽く手を上げて
場外に姿を消した











静寂を取り戻した尸魂界の空に
雲の間からゆっくりと光が差してくる


やがて迎える夕刻を前に
柔らかな日差しは辺りを優しく照らした



「隊長、雨が…」




心配になって、上司の傍に来たルキアは
空を見上げて掌を出した


小さな小さな水の粒が
雲の無い空からおりてくる



「天気雨か。今日は星が美しく見えるといいな…」



目を細め見上げる空に手をかざす浮竹に
乱菊がぽつりと言葉を加えた


「晴れた日に振る雨、えーっと…姫君の嫁入りでしたっけ?」



青ざめるルキアと浮竹をよそに
乱菊は晴れ晴れと笑って
再び二人へ視線を向け直した





冬獅郎はの腕を離すと
伝う雨が混ざった涙に濡れる、の頬を

そっと拭う




「冬獅郎さん…」





の胸をきつく締め付け
息が詰まるほど押し殺していた感情が
あふれ出す


冬獅郎は穏やかに微笑むと
をその腕に引き寄せた



「俺は…ここにいる」



冬獅郎の温もりが着物を通して感じられた

白い雪よりも澄んだ白銀の髪が
すぐ近く横に見え
冬獅郎の声が何より近くで聴こえた


それはの凍りついた心を全て
溶かしていく物






、悪かったな…お前を随分待たせた

もう、強く無くたっていい



お前も俺に還るといい




王族だとか

四楓院家だとか


隊長だとか

死神だとか


そんな物はもう




俺がすべてお前の肩から下ろしてやるから



今日、今この時で終わりだ

もう…いいんだ





「お前は何でなくとも、かまわねえ」




を包んだ腕が静かに離され
冬獅郎はの髪を撫でるように

一度だけ軽く、ぽんっとの頭を叩く



自分の額との額がぶつかるほど
しかめた眉尻が上がる顔を
うんと近づけて


の瞳が自分の知る物だと確認すると
安心したようにまた微笑んで

ゆっくりと呼吸をした




呼吸が乱れていた
唇にかかる冬獅郎の呼吸が合わり


やがて穏やかさを取り戻していく







二人の無事を確認し
試験の行方を見届けたそれぞれの隊長は
散り散りに会場を後にするが

総隊長の付近だけは、なにやら騒がしい



「なっ?!あいつ!許さんっっ!!!」



居ても立っても居られない浮竹を
京楽や乱菊、ルキアや総隊長までもが
力ずくで止める


「野暮よ!」

「大人気ないぞ浮竹」

「不粋じゃ…十四郎」





冬獅郎と
長い時間を越えて得た二人には
彼らの声は届かない




ゆっくりと二人呼吸を揃えて
重ねた温もりの僅かな時間は

永遠のように深く長い時間に感じられた







全てを捨てて


最後に背負うものは



お前への…






俺の想いだけでいい








それは、二人の影が交わるその前に
冬獅郎がへ捧げた言葉








それはまるで凰華が舞う
蒼い天蓋に氷輪丸が座すように

雲が晴れ、穏やかな光が差す空へ
優しい雨が降り注ぎ


静やかに二人をみまもった




そびえ立つ障壁を
超えて飛んだ小さな鳥を


輝く白雪が優しく包んだ遠い昔の物語は
時を越えこの日、ようやく動き出した


たとえすぐ傍で、闇が二人を欺いたとしても

歴史を作る事は出来る
そしてまた何度でも廻り


出会えばいい







試験の終わりを告げようと
からゆっくり顔を上げたその時


冬獅郎は非常に穏やかではない
気配を背後に感じて

すぐさま斬魂刀を拾い上げ、振り向いた



相当虫の居所が悪そうな人物が
一人、暗雲を背負って仁王立ちしている





に…に触れるなど…
俺が許さんぞ、冬獅郎君!!」




一瞬しんとなった場内から
深いため息が漏れた



「止めて下さいよ京楽隊長!」

「あきらめましょルキア。おもしろそうじゃない?」


この人達に聞いたのが駄目だ…
ルキアから再び大きなため息が漏れた







口付けを交わした二人
悪夢で有ったなら、斬れば覚めるやも知れん

目の当たりにした光景を
未だ現実として受け止められない浮竹が
制止を振り切り、再び冬獅郎へ刃を向ける



なぜ許可を貰わなきゃならないのかと
冬獅郎は眉間に大きなしわを作ったが

浮竹のただならぬ雰囲気を
感じ取ったからか
後ろでおろおろする

冬獅郎はおもむろに左手を差し出した



それは何かを渡せと
に求めているようだ



「貸せよ、それ」

「…?」



戦いを終え、は何も持たない
唯一有る物といえば、地に落ちたままの短刀と

の身一つ



「降ろせっつったろ?背負う物全てをな」



は、少し驚いた顔をして
ようやく冬獅郎の求める物に気付いた


「ありがとう…冬獅郎さん」


そう言うとは、乱菊と総隊長に目をやる
元流斎は静かに頷いた



「しょうがないわねぇ!給料上げなさいよ?」


あんたを抑えられる位の器なら
部下になってやらん事も無いと付け加えて

乱菊は皮肉に笑って手を振った



はそんな二人に小さく礼をして
ゆっくりと十の紋が入った
隊長羽織を脱いだ


「あっ…」



風がの手の中から
羽織をさらう


何も言わずに振り返る事も無いまま
冬獅郎の左腕が風に舞う羽織を

しっかりと掴んだ


冬獅郎は当たり前のように
それを羽織る
白い羽織から黒い死装束の袖がなびく



ここに新しい十番隊隊長が
生まれた事を誰もが悟った




「冬獅郎さん、とてもお似合いですわ」


柔らかに微笑むに乱菊は

の羽織がなぜ今まで
袖の無い、膝丈ほどの隊長羽織だったのか

あまりに自然にその羽織を纏い
十番隊を背負った冬獅郎を見て


なるほどねと納得して、優しく笑い返した





こんなに穏やかなの顔を
見たことがあったろうか…

浮竹の刀を持つ手に力が入り
表情が変わる


を俺から奪うと言うのなら
俺を倒してから行け!」




浮竹の言葉に、穏やかだった
の表情が悲しい物に変わる

僅かな霊圧の変化を感じて
冬獅郎は大きくため息を吐いた




「これ以上に、重いもん背負わすなよ」




自分が今まで感じていた
への想いの深さよりも

冬獅郎の想いがどれほど深いものかを
大きな眼とその言葉が


鋭く浮竹を刺した



「こいつが最後に背負う肩書きは
俺の嫁だという事だけでいい!!」




そう言い終えて刀を振りかざした
冬獅郎が見たものは
後頭部に大きな瘤を作って地面へと

倒れていく浮竹の姿だった



低い唸り声がする


どうやらかろうじて、生きては居る様だ




「やめい馬鹿者!隊長に就任する貴重な人材を
立会人であるお前が、潰す気か十四郎!」



禍々しい霊圧を放つ元流斎が持った
杖の天辺からは、僅かに煙が上がっている


総隊長の後に続いて駆け寄る
ルキア達の一番後ろでは

京楽が菅笠を深く被り直した



それはあまりに哀れな同期への
同情からでは無く、堪えきれない笑いを隠す為



「お前もその目で見たじゃろう?この者の挿げ替えは
そこらの副隊長では効かぬぞ。さっさと就任式の準備をせぬか!」



元柳斎の杖が再び、容赦なく浮竹を突く
京楽は笑いを飲み込んで

浮竹の元にしゃがむと一言



「浮竹、今日は気の済むまで俺の酒に付き合えよ?」



付き合ってやるよ。じゃないのか?と
その隣でルキアと七緒は思う


呆れて落胆する二人の横を通り過ぎ
周りの様子に、何が起こったのかと
呆然となる冬獅郎の前に、乱菊が立った




「十番隊副隊長、松本乱菊。よろしくね、小さな隊長さん」


「ああ宜しく頼む…って小さなは余計だ!!」


事も有ろうに、一番言ってはいけない禁句を
初対面に告げられて、酒のにおいが漂う中
明らかに服装の乱れが解る乱菊に


冬獅郎は心に誓う





あいつは減給だ…





乱菊は冬獅郎の後ろに居る
笑って手招きする


「行ってあげなさい。せめてもの救いにね」


そう言っての背中を
浮竹の方へと押した


倒れた浮竹の傍に行く
何も言わず止める事無く
見守る冬獅郎に、乱菊は声をかける



「黙って行かせてやるなんて、いいトコ
有るじゃない、日番谷…隊長?」


「…うるせえよ松本」



さっそく飛び出した憎まれ口は
冬獅郎なりの優しさを、すぐに見抜かれた事と

隊長と呼ばれる事への照れ隠し


斬魂刀を鞘に収めて
静かに背を向けた



うめきながら頭を抑えて起き上がる浮竹を
今にも泣きそうな顔をした
不安げに覗き込む








笑う事を教えた俺が



「そんな顔をするな、お前の幸せを…」




にこんな顔をさせてどうする…





浮竹は自分の頬を両手で
強く叩いて、勢い良く立ち上がる




「俺が喜ばない訳無いだろう?」



今日のお前の痛みに比べれば
何も出来なかった俺の痛みなど
たかが知れた物

お前の幸せを、見守ってやる事が出来るのならば



いつまでだって背負ってやろう




こんな痛みなど



浮竹はに向けて
ありったけの優しさを込めて

笑った


「浮竹様…」

はそんな浮竹を見て安心と
少しの淋しさが混ざった、大きな涙の粒をいくつか零して
ありがとうと笑った



大きな手が冬獅郎の背中を
ばんっと叩く


「おめでとう、冬獅郎君」



いち早く嫌な予感を悟った冬獅郎が
浮竹を見上げる顔は思い切り
眉を顰めて居たのだが



時すでに遅し



浮竹の大きな手は
冬獅郎の首根っこを掴んでいる


「なっ?!」


「祝ってやる!就任式が終わったら皆まとめて、飯を食いに来い!」


固まったまま続く笑顔は
かえって恐ろしい物だ


「婚約披露か?いいねぇ。ここの所
暗い話題ばかりだったからな、悪くない」


「いらねーよ!!つーかなんでそこまで話が進んでんだ…」



京楽が楽しそうな揉め事に
すかさず参戦し、浮竹に加勢する



の飯はうまいぞ。心配しなくとも
ちゃんと君にも食わせてやるから」


「なんでが作るんだ!って何、てめえがしきってんだ!」



鼻歌交じりの浮竹と京楽は
冬獅郎を引きずったまま、足取り軽やかに

有無を言わさず連れて行く



「つべこべ言わずに、まあ来なさい」

「やめろ、こら!離せおっさん!」


「と、冬獅郎さん待って!浮竹様ー?!」




慌てて短刀を拾い上げて
冬獅郎を追いかけるを、笑って見送る乱菊と
呆れて物も言えない七緒

これでいいのかと凹むルキア




残された三人の部下達と、紅く染まる夕刻の空に
尸魂界にいつもの平和が訪れる













それぞれ別に回る時間は

ようやく終わりを告げて



共に廻る十番隊隊主室の扉が
ようやく開かれたのは





宴が続く長い夜の後のこと










  


やっと第二章まで続いた、馴れ初めの完結です。
ここまで読んで下さってありがとうございます。

十番隊隊主室はこれからが本当の始まりです。
まだまだ頑張って書いて行きます!

火冬様に捧ぐ

2005.11.30
十番隊隊主室 一片






最期に背負う物