「何!?居なくなっただと?!何故もっと早く言わん」


「…様の霊圧が回復してからで良いと。
浮竹隊長が、ご自分でおっしゃった事でしょう?」



大虚の襲撃により、多くの負傷者を出した
卒業試験から約1ヶ月

の霊圧が回復し浮竹は、と共に
四番隊救護室へと、負傷した者達を
見舞いに出向いた

浮竹の目的は

大虚を瞬時に凍結させた程の




天才児『ひつがや』




そう呼ばれて居た少年を

入隊試験免除にて
護廷十三隊へ、配属出来る様
推薦するためだったが

その『ひつがや』の少年は


回復後、姿を消したと言うのだ


詰め寄る浮竹に卯の花は
雨乾堂での会話を
思い出すよう、浮竹を促した



「…ああ。確かに言ったな…。で、彼はどこへ?」

「私も気になったので、総隊長の元をお伺いしたのですが…」


卯ノ花は言いかけて、言葉を濁す



「直接元柳斎先生の所へ行った方が良さそうだな。」

「ええ。その方が話は早いと思います。」





二人の会話に入る事無く、
空になった寝台に腰掛けて
冷たくなった敷布に、そっと手を重ね

そこに有った筈の温もりに触れる


ほんの少し悲しくなった顔を、隠すように
寝台のすぐ横に有る窓から
遠く瀞霊廷を見つめていた



ただ黙って窓の外を見つめる
の表情が見えず
体調が万全では無いのかと思った浮竹は
卯ノ花とに、声をかける



は一応、診て貰っておくといい。卯ノ花隊長、すまんが頼む」



浮竹はそう言い残して
救護室を後にする

寝台に腰掛けたまま、は何も言わず
ほんの少し笑って手を振り
見送った

浮竹の姿が見えなくなると
はまた、窓の外を見つめた







待ち人は来たらず




何も言わずに姿を消した

背に受け止めた愛しい人




薄れ行く意識の中で

それが私だと気が付いて







再び出会う事から遁れたくなって
しまったのですか






もう待つなと
あなたは告げているのでしょうか






あなたを導いた事は




やはりあなたを
苦しめてしまったのですか







それでもあなたを待って居たいと

思う私を



あなたは何処かで笑うでしょうか




迎えに行くと
言ってくれたあなたを

忘れる事が出来ずに




あなたが居ないここで今でも



信じずには居られない私を



愚なる事だと嘲けますか









思案に暮れ、悲しげに窓の外を見つめたまま
動かぬ
卯ノ花は優しく声をかけた




「彼が姿を消した後、これを見付けました。
様、お心当たりがありますね?」


「……えっ?」



が卯ノ花から、受け取ったそれは
何かの紙の切れ端の様だ


皺苦茶にされていた紙が
卯ノ花の手によって
丁寧に伸ばされた形跡が窺える


二つに折り直された紙切れを広げると


小さな紙に大きな字が踊る







『絶対に超えてやる。あと五年待ってろ!』







‘五年待ってろ’の、『五』の字は

『十』の文字を

雑に墨で消された跡の
ちょうど上に書かれて有る




たった少しの文字からは
他の者には、解読出来ぬであろう意志も

にとっては充分過ぎるほど
冬獅郎の想いが伝わって来る










薄れ行く意識の中でを感じた
お前を見付けた
その喜びよりも

大きく交差する格の違いを
痛感させられる事になった

同時にお前の中の、痛みにも触れて

俺の中に欠けた記憶も、まだ足りないと解った



今の俺にはまだ
を迎えに行くだけの力は無いと
身体中の霊圧が悟った



十年…いや、五年でいい



俺に時間をくれないか



今のお前を
そこから護れるだけの力を磨いて
迎える壁はすべて必ず


超えてみせる






、お前にもう一度


約束する


五年経ったら必ず迎えに行く







だから…






ちゃんと待ってろよ?













は、紙切れを持つ両手を重ねて
こみ上げる思いが溢れる
胸に添え

一人高みへと向い
己を高める鍛錬に出たのであろう冬獅郎を想う



それはにとっても
心に大きな決意をもたらした




「烈、ありがとう」






は卯ノ花に礼を告げると
静かに救護室を出る

まっすぐ前を向く
卯ノ花は安心して
小さな背中を見送った

















が向かった一番隊隊舎前で
扉の遙か遠く先まで
浮竹の声が大きく響いて居る



「先生!何故あの子を止めなかったのですか?!」




「一人で修行したいと言うたんでな、
己を高めたいと言う、熱心な赤子の向上心を
何故に咎める必要が有るのじゃ」



詰め寄る浮竹に、山本元柳斎重國は
椅子に腰掛けたまま
微動だにしない





「あの子は死神にとって、貴重な人材だ!
戻って来なかったら、どうするんですか?!」


「戻るのが楽しみじゃのう?…




ゆっくりと片目を開いて
扉の向こうのに問いかける


はそっと隊舎の扉を開き
元柳斎に向って、一礼すると
穏やかに微笑んだ




「ええ、彼は必ず戻ります。」



「その顔は決めたようじゃの、


「はい。今日から就きます。あちらでも
凰華の常時帯刀許可が降りました。」



厳しさの中に優しさを持って
元柳斎はを送り出す言葉を
静かに告げる




「怠る事無く己を磨き、精進せよ」


「はい」



浮竹を間に挟んで
山本元柳斎重國総隊長と、の会話が
何時の間にやら終わって行く




「ちょ、ちょっと待て!、何の話だ?!」



何の事やら検討もつかず
浮竹は軽く混乱しながら
に問う



「今日から暫く、王族に入る事になりました。」


「王族?それも今日からだと?!」




自分は何一つ聞いてはいない
浮竹に衝動が押し寄せた


あれほど拒んでいた王族へ
自ら入ると言い出した
一体何が、起こったと言うのだろうか






「卍解を得て力を磨く為に…私自身が決めた事です。
どうか心配なさらないで、浮竹様」



浮竹を静かに見上げる
の瞳は
固い決意を物語っている

突然の揺ぎ無い決意の申し出に
浮竹は止めようが無く
言葉に詰まる





「十四郎、それぞれが己の正義を見極めて
力を磨く道を進んでおるのじゃ、
お前とて同じ、奢る事無く力を磨け前へ進め」



「…はい」



師は静かに弟子を悟して
隊舎を後にする我が子の様な、二人の姿を
穏やかに見送った
















小さな斬魂刀一つのみ携え
その身一つで王族の住まう地区へと
ゆっくりと歩くの隣で

名残を惜しむ様に浮竹は

立ち止まる




たとえ護廷十三隊と言えど
一隊長が許可無く踏み入れる事は
出来無い王族地区


自分の手を離れそこへ向う
居なくなってしまう前に
見送る事が出来る


今はただ、それだけが救いだった







眠る小さなお前を見詰めて

前へと進むを見守ると
心に誓った夜を思い出す



どうかお前が無事



…幸せに



前へと進めるように




「気をつけて行って来い、



門の手前で振り返る
浮竹は痛みを振り切って
ありったけの優しさで

笑って手を振り送り出す




「はい!」







お前がそう願うなら


俺は笑って見送ろう



「たまには顔を見せに来い、俺はいつでもここに居る」



「ありがとう…浮竹様」





お前が道に迷った時も

お前の帰る場所を
いつでも護って居られるように

己の道を見極めて


我れ褒める事無く


力を磨いて待っていよう







浮竹もまた、心に決意を抱いて


風に乗って
高く羽ばたくを見上げた





それぞれの決意を秘め
再び長い時代が再び廻り出す


静やかに過ぎて行く年月と共に




潜む闇は同時ゆっくりと
確実に近づいて来るのを
誰も気付かないままに























後少しで完結のはずが
またはぐれました。
この5年の空白は連載が終わったらゆっくり書くとして、(すっとばすつもりだな?!)
次回からようやく大詰めです。
成長したちゃんと日番谷君が、どう出会うかお楽しみにv
ああ…自分の首を最後まで絞めっぱなしだ!!
それぞれの決意