冬獅郎は真央霊術院へ入学後

院内すべての者を驚かせる程

異例の速さで級を飛び超え


卒業試験を迎える






天才児






確かにそうかも知れない

唯一人と違ったのは
胸に秘めた冬獅郎の想いの強さだった
恐れる事無く
前に進む事だけを考えた



それはただ、一日でも早く



を見付け出す事





迎えに行くと誓った


あの日氷輪丸を腕に抱き
蒼い炎の羽根纏って

舞い降りた天女



統学院にいる間
探す事はせず
いつかまた出会えるその時に


憚る壁を超えて進んで行ける様に

ただ我武者羅に己を高めた





氷輪丸を託した
もしも死神であるならば
あと少し手を伸ばせば、届く所まで来ているのかも知れない








そう思っていた


















卒業試験実技実習当日


























今…何がが起きたって言うんだ












一人離れて試験の順番を待って居た
冬獅郎の目の前で
自分より遙かに
強い筈の試験管達が



一人





また一人





















―――――虚の大群に喰われて居く
















雛森が初めて、魂送実習に行ったその日
巨大虚の大群に出くわし
五番隊隊長、副隊長に助けられたと聞いた事は有る


この卒業試験における試験官は
護廷十三隊各隊の人材発掘を兼ねて

五席以上の席官がそれぞれ十三名、試験監督を務めている


隊長には及ばずとも
十三人も居ればどうにかなるんじゃ無いのか?





それが何故、抗う間も無く
いとも容易くに喰われている?






すでに試験どころではない
四方から聞こえるのは生き残った者達の

恐怖と言う悲鳴


逃げ惑う者、腰を抜かす者、気を失う者


一人

また一人と喰われていく



無数の虚がその場に居た、死神で有る試験管すべてと
死神の資格を未だ得ぬ受験生の
大部分を喰らいつくし



空を裂かれ出来た暗い穴へと集まり出す


その先に有ったモノ















―――――大虚…
















目の前に映る光景が未だに現実として
受け入れられずに居た

冬獅郎の体中から逃げていく

冷たい汗が
全身の体温を奪う



重い息を辛うじて肺まで吸い込んで
呪文のように脳へ信号を送る





鞘を抜け

斬魂刀を開放しろ



恐れるな




動け…



動け






動けよ



固まってんじゃねーよ…






戦き動かぬ己の身体を罵る





死神になると言う事




それは常に生と死の狭間を行く




解ってる


解っているつもりだった




(わりぃ…俺こいつを壊しちまうかもしれねえ…)


冬獅郎は刀を強く握り直す










死は或いは泰山より重く




或いは鴻毛より軽し






今俺自身に必要な物は…









――死ぬ覚悟







「「……霜天に坐せ―――氷輪丸!!!」」







空を響かせ冬獅郎の大声と共に
氷の龍は天を舞う






(例え死んでも大虚を退けられたなら…)




「生きてる者は全員退け!俺に任せて逃げろ!」



冬獅郎の霊圧を感じ、大虚は
不気味なほどゆっくりと振り返り
同時にそこへ集まっていた無数の虚が
冬獅郎めがけて襲い掛かる





(お前の所に声くらいは届くだろ?)







冬獅郎は唸りを上げ、無数の虚へと飛び込んだ




一度に無限の虚を凍らせ打ち砕く



それを掻き分け大虚へと
大きく氷輪丸を振り下ろした瞬間

空を割った裂け目から砕いた虚と同じ数

あるいは…それ以上の虚が湧き出し
再び冬獅郎を襲う








「―――ぐっっっ!!」







弾かれた氷輪丸から大量の氷が地に落ちる
辛うじて避けた攻撃は

冬獅郎の額をかすめ
流れ落ちる出血が、視界を濁らせた







「…冗談だろ…?」





血を拭う間も無く
地に跪き見上げる空からは
再び虚の大群が冬獅郎へと押し寄せる






死が覚悟から直感へと変わったその時






ドン!!!






「なっ…お前?!」





冬獅郎の前で、攻撃を防ぐ者の姿が有った






















  


いや、好きなんですよ日番谷君。
ボロボロにしてごめんなさい。
好きだから意地悪したいんです(お前が死ね!)

卒業は死の覚悟